

晴明☆暗夜之鬼譚
瀬川貴次
反抗期真っ盛りの陰陽師見習い・吉祥丸
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美人だけど超ズボラ!? 天才陰陽師・安倍晴明
陰陽道の名門・賀茂家の跡取りに生まれた吉祥丸は、反抗期真っ盛りの十五歳。見かねた父から、安倍晴明に弟子入りするように言い渡され、実家を追われる羽目に。都随一の呪力と三十路とは思えぬ美貌を持つ晴明。訪ねた屋敷で、霊を赤鬼に化かす秘術を目の当たりにした吉祥丸は、すっかり心を鷲掴みにされ――。かくして、怠惰で偏屈な師匠のもとで、吉祥丸の波乱に満ちた修行生活が幕を開ける!
2025年8月21日発売
660円(税込)
文庫判/256ページ
ISBN:978-4-08-744806-1

【細谷正充さんによる解説を特別公開!】
帰ってきた。瀬川貴次の人気作の世界が帰ってきた。本書『晴明☆暗夜之鬼譚』は、「暗夜鬼譚」シリーズの十数年後を舞台にした、新シリーズの第一弾である。作品の内容に触れる前に、まず作者について記しておこう。
瀬川貴次は、一九六四年、福岡県に生まれる。集英社のコバルト・ノベル大賞の最終候補となったことを切っかけに、一九九一年、現代ホラー『闇に歌えば』を集英社スーパーファンタジー文庫から刊行し、作家デビューを果たした。以後、デビュー作をシリーズ化し、好評を博す。そして一九九四年六月刊行の『暗夜鬼譚 春宵白梅花』で、平安時代を舞台にした陰陽師物テイストのホラーに乗り出したのである。以後、こちらも「暗夜鬼譚」シリーズとして、人気作となった。集英社スーパーファンタジー文庫が廃止されると、コバルト文庫に移行。「暗夜鬼譚」シリーズ以外にも、平安時代を舞台にしたホラーとして「地獄の花嫁がやってきた」「鬼舞」シリーズなどを発表している。コバルト・ノベル大賞に応募したことを考えれば、落ち着くべきレーベルに落ち着いたというべきか。コバルト文庫がなくなった後は集英社オレンジ文庫で、「怪奇編集部『トワイライト』」「怪談男爵」シリーズなどを執筆。「怪談男爵」シリーズは、大正時代を舞台にしている。
さらに集英社文庫でも、やはり平安時代を舞台にしたホラー「ばけもの好む中将」シリーズを開始。その他にも、清少納言と紫式部が宮中の怪異とかかわる『紫式部と清少納言 二大女房大決戦』など、愉快な作品も発表している。また、「暗夜鬼譚」シリーズも集英社文庫で復刊されており、手軽に入手できるのが嬉しい。講談社タイガ文庫で刊行されている、天才歌人と怪異譚好きの宮仕えの少女がコンビを組む「百鬼一歌」シリーズも、読みごたえのある平安ホラーだ。
このように旺盛な執筆を続けている作者は、別名義でも活躍している。一九九九年、第六回日本ホラー小説大賞に、瀬川ことび名義で応募した「お葬式」が、短編賞佳作となったのだ。以後、瀬川ことび名義でも、『厄落とし』『夏合宿』『妖霊星』などのホラー小説を発表しているのである。
さて、以上のような経歴を見れば分かるように、作者はひたすらホラーを書き続けている。コバルト文庫電子版オリジナルのエッセイ集『瀬川貴次の万物ぶらぶら』で作者は、
「幼少期からとにかく妖怪変化が好きで好きでたまらず、ばけものが出る話、もしくは出ないまでも、ばけものがどこかで必ずからむ話、もしくはばけものじみた変人が登場する話をずっと書いてきた。
もはや『ノーばけもの、ノーライフ』『ばけものなくして生きる甲斐なし』ぐらいの勢いである。
もちろん、こんな自分が少数派であることは重々承知している。
その昔、『ばけものが書きたいんです』と熱く主張したらば、
『ばけもので食っていけるのは水木と京極だけ』と、あっさり受け流されたことがある。
でも、そう言われて自分はむしろ嬉しかった。ひとりだけならともかく、ふたりも食っていけるのなら、この分野には充分、芽があると思ったからだ。
実際、どうにかこうにか食べていけている。それもひとえに、応援してくださる読者のかたがたが、少ないながらも確実にこの世に存在してくれているからだろう」
といっているのだ。また、集英社スーパーファンタジー文庫の「著者紹介」には、「作家を志したのは、小学校6年生の時、諸星大二郎の作品に出会ってから。以後、そっちの世界に目覚め、まっしぐらに今日に至る」と書かれている。とにかく妖怪変化が好きで、その世界で遊び続けているのである。
【著者プロフィール】
瀬川貴次(せがわ・たかつぐ)
1964年生まれ。91年『闇に歌えば』でデビュー。集英社コバルト文庫に「聖霊狩り」シリーズ、「鬼舞」シリーズなど著書多数。集英社文庫に『波に舞ふ舞ふ平清盛』、『闇に歌えば 文化庁特殊文化財課事件ファイル』、「暗夜鬼譚」シリーズ、「ばけもの好む中将」シリーズ、「晴明☆暗夜之鬼譚」シリーズ、オレンジ文庫に「怪奇編集部『トワイライト』」シリーズ、『わたしのお人形 怪奇短編集』、「怪談男爵 籠手川晴行」シリーズ、「もののけ寺の白菊丸」シリーズがある。ほかに『化け芭蕉 縁切り塚の怪』『百鬼一歌 月下の死美女』など。また、瀬川ことび名義での著書に『お葬式』『妖霊星』などがある。