作品制作・写真/金沢和寛
「青春は、気まずさでできた密室だ──。」
読了後、本作を象徴するキャッチコピーとして、これほど的確なものはないと感じました。人間誰しも「気まずさ」の1つや2つは経験したことがあると思います。なぜなら沈黙や誤解といった「気まずさ」の元凶は、日常の至る所に潜んでいるからです。しかし、このモヤモヤとした不完全燃焼感が取り払われた時、理解や納得に近い、ある種の爽快感を得られるのも人間特有の性ではないでしょうか。本作は「なぜこの人はこんなことをしたのだろう」という、日常の心理や事情を解き明かしていくミステリーです。作中で人が死ぬことはありませんし、刑事や探偵が主人公という訳でもありません。しかし人間同士のコミュニケーションに存在するロジックは、あまりに奥深く謎めいていて、それでいて時に単純明快という矛盾を孕んでいます。だからこそ本作では、何気ない日常の中で、脱出ゲーム攻略のような解放感を得ることが出来ます。
日常生活のワンシーンを切り取って描いている為、基本的に場面転換はなし。それが故に、登場人物もシチュエーションも異なるはずの全5話短編集は、驚くほど読みやすい構成となっています。そして何よりも各話の伏線回収がお見事。読み進めるにつれ謎が解け、全てが精巧に仕組まれていたことが分かる感覚がたまりません。
高校生という、ひたすら複雑で不器用な年代の若者たちを、始発電車、ファミレス、観覧車などの「密室」に閉じ込めたら一体どうなるのか。結末は各話様々ですが、個人的なオススメは『メロンソーダ・ファクトリー』と『夢の国には観覧車がない』の2つです。特に後者に関しては、私の出身高校が男子校だったこともあり、某夢の国へ男だけで遊びに行く経験も多数あった為、こんな気遣いをされるような青春を送ってみたかったなと感慨深くなってしまいました。
本作は山田杏奈×奥平大兼による映像化、連続ドラマ配信を予定しており、謎と共に解き明かされる登場人物たちの心模様が、色鮮やかに表現されます。映像作品で初めて知る方も、是非原作小説をお手に取っていただいて、爽やかな「気まずさ」を味わってみてください。本作のエピローグは、皆様に心地好い余韻と充足感を与えてくれることでしょう。それではまた次回! 青春という名の密室へ、行ってらっしゃいませ!
- おみこし
- 学生時代はアメフトとアカペラを兼部していた熱血漢。オフでは運動全般、カラオケ、飲み会をこよなく愛するお祭り男。しかしてその実体はエンタメで白米3合を平らげる雑食系男児。
- サスペンス、SF、ダークファンタジーが大好物。物語の世界観や、意外な展開に翻弄されていたい性分。TVゲームの腕前や知識、洋画への愛には自信あり。作品に自分ごと没入していくタイプ。文芸という大海を冒険・開拓していくためにも日々奮闘中!
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