「駿河守殿、これから、われらが先鋒として城内へ討ち入りまする。海ノ口城は三段の梯郭と聞いておりますが、とにかく曲輪の扉を破り、最短で主郭への道筋を開こうと思うておりまする。二の曲輪、三の曲輪の制圧は後続の隊に任せるとして、ひとつ確認しておきたいことが」 「何であるか、鬼美濃(おにみの)」 「もしも、城内で平賀玄心(げんしん)を見つけたならば、すぐに討ち取っても構わぬのであろうか?」 虎胤が真剣な面持ちで問う。 「うぅむ……」 信方は思案する。 「……できれば、生かして捕縛できればよいのだが」 「生け捕りせよと?」 「若が主郭へ辿り着いた時、平賀玄心を捕らえられておれば、城攻めの目的を完遂したことが一目瞭然となる。すなわち、この戦の終結をはっきりと感得することができるであろう」 「なるほど、それが御初陣の成功の証(あかし)になるということか」 「できれば、平賀は帰還の際にそのまま御屋形(おやかた)様の前へ引き立てたい。さすれば、殿軍を申し出た若の御覚悟もお認めいただけるのではなかろうか」 「そこまでお考えになっての生け捕りにござるか。であれば、そのことを肝に銘じて動きまする」 虎胤は得心(とくしん)した表情で頷く。 「されど……」 信方は少し顔をしかめながら口を閉ざす。 「されど、とは?」 「……生け捕りは、あくまでもわが冀求(ききゅう)にすぎぬゆえ、そなたや兵たちの無事が大切だ。この城攻めでは、なるべく味方の犠牲を少なくしたい。それゆえ、平賀を含めて敵の抵抗が激しかった場合は、そなたの判断で討ち取ってしまっても構わぬ。最悪、首級が残れば御の字だ」 「承知いたしました。あくまで最善を尽くしまする。では、持場へ戻りまするゆえ、後ほど」 原虎胤は引き締まった顔で踵(きびす)を返した。 それから、水の手に集まった寄手の将兵は気配を消し、城の追手門へと移動する。 先頭の跡部信秋が松明に火を灯し、城門に向かって大きく円を描く。それが三度繰り返された。 しばらくして、忍びの者によって城門の木戸が開けられる。続いて、高さ三間(五・四m)、幅五間(九m)はある重い追手門が鈍い音を立て、積もった雪を押した。 人が通れるだけの隙間だけ城門が開かれ、いよいよ殿軍による城攻めという前代未聞の奇襲が始まる。