「……わたくしもお前様にお伝えしなければならないことがありました」 「何であるか?」 「実は朝霧様のご侍女であった立花(たちばな)殿から、やっと文が届きました。こちらから何度も送っておりましたが、これまで一度も御返書をいただけませんでした。されど、数日前に突然、武蔵からの文が届き、朝霧様の三回忌が滞りなく終わったとお知らせいただきました」 「あっ! 三回忌は今年ではなかったのか……」 信方の顔色が変わる。 明らかに朝霧姫の法要を失念していたという面持ちだった。 三回忌の法要は、逝去した翌々年に営まれる。つまり、去年の暮れのはずだった。 「晴信様に頼まれ、昨年、当方からお供え物の香を送っておきました」 「若がそなたに?」 「はい。折り入って直々の頼みがあると仰せになられまして」 「それがしに内緒でか?」 「はい、晴信様が申されるには、武田の名義ではお供え物を受けとってもらえぬ恐れもあるので、わたくしの名義で立花殿へ送ってほしいとのことにござりました。加えて、恥ずかしいゆえ、お前様にも内緒にしてくれと」 「なんと、水くさきことを……」 「積翠寺(せきすいじ)のお墓へも一人でお参りなされ、花を手向けたそうにござりまする。晴信様にも深く思うところがあり、独りで静かにお祈りなされたかったのではありませぬか。それをお前様に説明するのも照れくさかったのでありましょう」 「そういうことか……」 信方は神妙な面持ちで俯(うつむ)く。 晴信がそのような思いになることが理解できたからだ。 「その話はさておき、お前様にお伝えしなければならぬ大事なお話がありまする。立花殿からの御返書には書状が添えられており、お前様にお渡ししてほしいと記してありました」 「こちらから問い合わせをいたした件か?」 「書状はお前様宛ゆえ開封しておりませぬ。されど、何度も言われた通りに文を出しましたので、おそらく、そのことに対するご返答ではないかと思いまする」 「さようか。ならば、その書状をすぐに持ってきてくれぬか」 「わかりました。少しお待ちくだりませ」 藤乃は書状を取りに行く。 ――朝霧姫様が亡くなった時の経緯を訊ねてきたが、やっと立花殿から返事がきたか。ずいぶんと時がかかったものだ。つまり、それだけ、内容が重いということか。 信方は腕組みをしながら小さく唸(うな)る。