第3回「いきなり文庫! グランプリ」優秀作に選ばれたのは、中山祐次郎『俺たちは神じゃない 麻布中央病院外科』
- 北上
- 私はこの作家の作品を初めて読んだんですが、面白かったねえ。なによりもいいのは手術の場面が圧倒的に読ませるんだよ。この作家の「泣くな研修医」というシリーズは読んでいますか?
- 江口
- 読んでます。
- 北上
- それにも手術シーンが多いの?
- 江口
- ありますね。
- 北上
- じゃあ、この作家の特徴なんだ。すべての医療小説を読んでいるわけじゃないから何とも言えないんだけど、珍しいよね。
- 吉田
- 私、医療小説を3つのパターンに分けて考えてみたんですけど。
- 北上
- ほお、いいねえ。どういう3パターン?
- 吉田
- まず、医者と患者の関係を描くパターン。次に、組織の中の医者を描くパターン。最後が、スーパードクターを描くパターン。この『俺たちは神じゃない』はある種、スーパードクターものでもありますね。外科の手術場面がとてもリアルに読ませる。たとえば血管を直接手でおさえるシーンが出てくるけど、えっ、手で? と。
- 北上
- あのね、構成がうまいんだよ。これは連作長編で、第一章から第四章まであるんだけど、第一章が「大出血」というタイトル通り、緊迫した手術の場面から始まるからいきなり胸ぐらを掴まれて物語の中に引きずり込まれる。かと思うと、その緊急の手術の場面に、「ごめんごめん、待たせちゃった?」って松島が現れるだろ。この緩急のリズムが抜群だよ。
- 江口
- うまいですね。
- 北上
- それにこの物語の主人公は剣崎啓介という医者なんだけど、脇を固めるキャラがいいよね。さっきの松島を始め、あとは麻酔科の瀧川京子。手術室ではいつも冷静なんだけど、大酒飲みで、しかもすぐにぶっ倒れる。
- 吉田
- それぞれ、キャラクターが立っている。
- 江口
- 酒を飲んでても、すぐに呼び出されるから医者は大変だ。
- 北上
- そういう過酷な医療の最前線が絶妙に描かれている。
- 吉田
- でもいいんですか。酒場で飲んでいたのに呼び出されて、アルコールが入ったまま手術室に直行するんですよ。
- 江口
- 当直の医者は飲まないですよ。非番の医者が飲んでいるときに呼び出される、ということではないでしょうか。
- 北上
- これがリアルな実態なのか、それともこの物語の舞台になっている「麻布中央病院外科」の特殊性なのか。
- 吉田
- あと、主人公の剣崎と、同期の松島の間に、友情以上恋愛未満という微妙なBL臭、私はちょっと感じたんですが、どうでしょう?
- 北上
- おれ、イヤなんだよ。ちょっと深い友情を描くと、すぐにBLに結び付ける最近の風潮が気にいらない。
- 吉田
- すみません、つい(笑)。
- 北上
- 友情でいいじゃん。それよりも171ページに出てくるんだけど、君たちは「切りたいから切っているんじゃないか」という台詞がある。ここで、参考図書の久坂部羊『オカシナ記念病院』(KADOKAWA)につながる話をひとつだけしていいですか?
- 江口
- はい。