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『結婚は人生の墓場か?』 姫野カオルコ 著
「愛は結婚の夜明けであり、結婚は愛の日没である」(フィード)
桜が満開になったある日のことです。4月より始まる
「恋愛フェア」
の帯に上記の格言をキャッチコピーとして使ったため、私はその校正をしておりました。そこである考えが頭をよぎり、校正の手が止まりました。
「本当に結婚は愛の日没なのか?」
と。
いきなり私事で恐縮ですが、スガイは先月結婚いたしました。
確かに多くの
先人たちが結婚についてネガティブな物言い
をされております。私も結婚するまで意識しておりませんでしたが、不思議なもので急に気になりだすと仕事が手につきません。そんな中、ふと近くの文庫棚に目をやると、集英社文庫に丁度よい参考資料があることに気づいたのです。
それが今回の本、
姫野カオルコ『結婚は人生の墓場か?』
です。
この本は、今年の上期の
直木賞を受賞
したことにも記憶に新しい著者による強烈な家族小説です。そうだ、私が求めている
答えはきっとここにある
はずだ、そう思ってページを繰ってみました。
主人公は出版社に勤めるサラリーマン・小早川正人。
ふたりの娘は有名なお嬢様学校に通い、一見幸せな夫婦生活だが、仕事に追われ妻・雪穂のリクエストにも追われ、散歩さえままならない。祝福されて結婚したはずなのに、どこで間違ってしまったのか−。
この雪穂は
私立のお嬢様学校
「聖マルタ女子学園」(もちろん架空)を出ており、結婚してからも
実家の成城(本当は国領)
から離れたがりません。そして妻のおもむくままに引っ越しをすること数回。主人公は溝の口⇒桜上水⇒高井戸⇒永福町⇒井の頭公園と転居し、住宅ローンと娘2人の高額な教育費を捻出するために四苦八苦しています。
この家族、
辛辣ながらも笑える
エピソードが満載です。
たとえば二人が付き合う前に、聖マルタ出の雪穂は「今日は帰りたくない」と言い、しかるべき施設に入ったのちに、コンドームを装着しようとする正人に「わたし、マルタだから‥、カトリックだから‥‥それは許されないの‥‥」と伝えます。
もちろんこのエピソードも雪穂が敬虔な
カトリックだからではなく、計画的な考え
によるものです。その後、夫婦になってからは、正人はしっかりと装着することになります。
さらに極めつけのエピソードとして、妻による
公立の学校への罵詈雑言
があります。
「公立校育ちの人はこれだからいやよ。公立育ちは感受性が鈍いからいやよ。公立なんかに通ったら一日目にレイプされる。公立の授業参観なんかに行ったらすぐにクレジットカードをスキミングされる。公立は荒れてる。公立なんか体育館にシンナーの匂いが充満して、性犯罪で逮捕されるのはみんな公立中学卒の男!‥(以下略)」−104pより
‥ここまで言い切るとむしろ清清しくさえ感じてしまいます。
この本が秀逸なのは『結婚は人生の墓場か?』と最後に質問系で終わるタイトルということです。この特異ともいえるモデルケースを描くことで、実際に結婚は人生の墓場か否かを検証しているともいえます。
人によっては主人公の正人のような状況でも、幸せだと感じる人がいるかもしれません。まして、人によっては異常に見える家庭でも、どこにでもある家庭の姿だと言い切る方もいるでしょう。つまり
「結婚は相対的なものさしでしか図れない」
というのが妥当なのかもしれません。
ただ個人的には
お互いの価値観
が合っていないと続かないでしょうし、もし仮に違っていた部分があっても
相手の立場にたって考える力(想像力)
、そして
許容できる心
がお互いにないとダメなんだろうな、と思います。
ここでポイントなのは、
「お互いに」
という点です。もし一方に偏りがあった場合は、この小早川夫婦のように、夫婦の気持ちのバランスが取れず、息苦しさを感じてしまうでしょう。そうなると本当に結婚は人生の墓場になってしまいます。
この本を読み終えた後、
「うちは両方とも田舎育ちだし、オール公立出なので、きっと価値観が近い。そして、お互いに相手のこと考えている(はずだ)からきっと大丈夫!」
そう思いこみ、毎週末、家で掃除機をかけています。
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スガイッち
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クールな酔っ払い系 宣伝担当
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とりあえずビールにはじまり焼酎、ワインとアルコールランプ以外は何でもアリ。酒にまつわる伝説多数。夢は、ウイスキーの似合うハードボイルドな大人の男。趣味は映画鑑賞とジャイアンツ。最近はまっているのは、海外探偵小説。今日も、オシャレな白い靴をはいて面白い本をハンティングする毎日。
2014.11.20
貴族探偵
麻耶雄嵩 著
2014.04.18
結婚は人生の墓場か?
姫野カオルコ 著
2013.11.20
淋しいのはお前だけじゃな
枡野浩一 著
2013.03.19
追想五断章
米澤穂信 著
2012.01.20
とんまつりJAPAN 日本全国とんまな祭りガイド
みうらじゅん 著
2012.01.20
初恋温泉
吉田修一 著
2011.09.16
叡智の断片
池澤夏樹 著
2011.02.18
ムボガ
原 宏一 著
2010.10.20
空をつかむまで
関口 尚 著
2010.6.25
マイナス・ゼロ
広瀬 正 著
2010.2.19
ガダラの豚 I II III
中島らも 著
2009.12.16
よもつひらさか
今邑 彩 著
2009.10.20
金のゆりかご
北川歩実 著
2009.2.20
おれは非情勤
東野圭吾 著
2008.11.20
東京バンドワゴン
小路幸也 著
2008.07.18
夏と花火と私の死体
乙一 著