錦上ホテル
大沢在昌Arimasa Oosawa
「錚々たるメンバーも、かつては食うや食わずだったのさ。俺だって、あの会のおかげでがんばれたようなものだ」
「伊多々田さんもそれはおっしゃっていましたね。『目高の会』の創設メンバーの大半は上野さんが担当されていたとか」
「当時は売れないミステリ作家を担当したがる編集者は珍しかった。ミステリマニアの上野さんじゃなけりゃありえなかったろう。そういう意味では恩人だよ」
「僕らには厳しい先輩ですけどね。ミステリの話をすると、『なんだ、あれも読んでないのか』って、始終怒られます」
「ああいう人はもうでてこないな」
そういってから、自分をひどく年寄りくさく感じた。
「じゃあ錦上ホテルと交渉していいですか」
「ああ。会費制でやってくれよ。世話になった作家ができるのはそれくらいだ。記念品をプレゼントするなら、その費用も負担するから」
万事にそつがない外山になら任せられるだろうと、私は告げた。
- プロフィール
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大沢在昌(おおさわ・ありまさ) 1956年、名古屋生まれ。79年、『感傷の街角』で第1回小説推理新人賞、91年『新宿鮫』で第12回吉川英治文学新人賞、第44回日本推理作家協会賞、93年『新宿鮫 無間人形』で第110回直木賞、2004年『パンドラ・アイランド』で第17回柴田錬三郎小、10年第14回日本ミステリ文学大賞、14年『海と月の迷路』で第48回吉川英治文学賞を受賞。著書に『毒猿』『絆回廊』など新宿鮫シリーズのほか、『欧亜純白』『烙印の森』『漂砂の塔』『悪魔には悪魔を』など多数。