羽田発午前9時45分のブリティッシュ・エアウェイズ機中で、見逃していた「GONE GIRL」を観る。いくつかレビューは読んでいたので何となく想像はしていたが、なるほどこういう展開だったのか。面白くなくはないけれど、後半の展開は少し現実離れしている。何よりも主演の夫婦二人(ベン・アフレックとロザムンド・パイク)が、あまりに地味すぎて魅力がない。少しでも眠ったほうがいいと思って昼食時にワインのミニボトルを3本飲んだけど眠れない。あきらめてひたすら読書。 ほぼ13時間後、現地時間で昼の1時40分にヒースロー空港着。7年前に来たときは、出入国のチェックは相当に煩雑だった。あのころの西側社会共通の敵はアルカイダ。そして今はIS。入国審査に時間がかかることを覚悟していたが、マンチェスター大学からの正式なinvitation(招待状)を提示したことが功を奏したのか、思いのほかスムーズに入国できた。空港前のバス乗り場から、グロスターグリーン行きのコーチに乗る。それからほぼ1時間半。ようやくオックスフォードに着いた。 バス停から徒歩で10分ほどのリントン・ロッジ・ホテルは、2階建ての古い建物で、オックスフォードを訪問した研究者や教員たちが利用するホテルだという。部屋は狭い。デスクとベッドのあいだは50センチほどしかなくて、その隙間に押し込まれている椅子に座るためには、椅子とデスクの隙間に足先から身体をねじ入れなければならない。まるで宇宙船のコックピットだ。 シャワーを浴びてから、持参のPC を繋ぎ、マンチェスター大学のエリカ・バッフェリ教授に、さきほどイギリスに着きましたとメールしてから、今後のスケジュールを確認する。オックスフォードでの上映は明日13日。シェフィールド大での上映は15日。今回のメインであるマンチェスター大学での上映とシンポジウムは17日で、地下鉄サリン事件から20年目の3月20日はエジンバラ大学だ。 まだ日は高いけれど眠い。だって日本時間ではそろそろ深夜だ。そのときエリカ教授から「無事に到着して良かったです」と返信が届く。僕は部屋の窓を開ける。石造りの建物。教会の尖塔。まるで中世世界のような景色が広がっている。 阪神淡路大震災が起きた1995年1月、ニュースステーション(テレビ朝日)の特集枠の取材で、僕はベルリンに滞在していた。この時期のスタンスはフリーのテレビ・ディレクターだ。到着して数日後の早朝、ホテルのドアが強くノックされた。ドイツの撮影スタッフだ。手には印刷されたばかりのドイツの新聞を持っている。その一面には崩壊した日本の都市の空撮写真。 「日本で大きな地震があったらしい」 彼は英語で言った。とても真剣な表情で。「おまえの家族は大丈夫か」 家族は関西にはいないと答えながら、僕はその写真から目を離すことができなかった。街は壊滅していた。悪夢が焼き付けられたような写真だった。