第二回優秀作は、いぬじゅん『北上症候群』に決定!
- 江口
- あのですね、巻末に載っている中村航さんの解説を読むと、もともとは2014年に公募された「OtoBon ソングノベルズ大賞 音楽を感じる小説 DREAMS COME TRUE編」の受賞作なんですね。
- 北上
- 8年も前に書かれていたの?
- 吉田
- 解説を読まなかったんですか。
- 北上
- ホントだ。書いてある。
- 江口
- 大のドリカム好きのいぬじゅんさんが「LAT.43°N」という楽曲を元に書き上げた小説であると。
- 北上
- 北緯43度、というのは札幌の緯度だと本文にある。北緯34度の神戸から始まって北緯四43度の札幌まで行く話だ。
- 江口
- それから7年、当時は書かれなかったエピソードや登場人物を含めて一から書き直したのが、これであると。
- 北上
- そのときの受賞作は出版されなかったの?
- 江口
- 電子書籍で出たらしいですね。
- 吉田
- あのね、ここに出てくる人たち、みんな、マスクをしていないんですよ。
- 北上
- えっ。
- 吉田
- 不自然ですよね。
- 北上
- 気がついてた?
- 江口
- いま言われて初めて知りました(笑)。
- 北上
- でもさ、それはあえて書いてないだけじゃないの?
- 吉田
- 8ページを見てください。
- 北上
- 主人公の琴葉が、彼女の仕事場であるアクセサリー・ショップに朝来たら、店がしまっていて入れないくだりね。
- 吉田
- そうです。あとから来た同僚の小川菜摘と会話するんですが、そこにこうあります。「赤い唇をゆがませた菜摘が,裏口へ歩きだす」。ゆがめた唇が見えたということは、マスクをしてないということですよ。
- 北上
- あやあ、ホントだ。
- 江口
- ええと、これは2014年に書かれた作品だから、まだコロナ禍の前、という解釈は成り立ちませんか。
- 吉田
- それでは17ページを見てください。こうあります。「コロナ禍で廃業する企業も多いとニュースではよく聞いていた」。
- 北上
- 今回出すにあたって書き直したんだ。
2014年の設定をいまに直したと。ところが全部は直しきれずに、マスクをしていない同僚の姿とかが残ってしまったと。
- 吉田
- そうじゃないですかね。もう私、マスクのことが気になって気になって……。心が狭い人間ですみません(笑)。
- 江口
- うーむ。いまのご時世、マスク論争になると分が悪いですね。