作品制作・写真/金沢和寛
かつて私が中学生だった頃、自分は何にでもなれるというようなある種の無敵感と、逆に何にもなれなかったらどうしようという不安で、ごちゃ混ぜになっていたような気がする。それでも仲良しの友人と語る、漠然とした未来は、とてもキラキラと輝いていた。この本を読んで、そんな日々を思い出した。
舞台は、北海道に新設されたばかりの中高一貫の女子校・築山学園。東京生まれの秀才・宮田佳乃、地元生まれの奥沢叶、二人の視点から紡がれる、青春群像劇だ。
佳乃は国際コンクールで入賞するほどのピアノの腕前。通っている塾での成績も優秀で、このまま超名門校に進学するつもりだった。
叶は完璧な笑顔の美少女。みんなが一目置き、品行方正な優等生である。
どちらも、端から見れば、うらやましいかぎりの少女たちだ。しかしながら、それぞれ抱え込んでいた絶望があった。
佳乃は、父親の独断で、一人北海道に送られる。当然のように、「自分は入試成績一位入学で新入生総代の挨拶をする」と思い込んでいた初日、目の前で挨拶したのは、叶だった。痛烈に感じるライバル意識がまぶしい。
一方で叶は、佳乃の、ピアノを弾く姿や人とぶつかりやすい性格なのに自然と周囲に受け入れられている姿を見て、複雑な思いを抱く。「あの人と私の何が違うの?」という心の叫びが痛々しい。
大人になってからなら、「こんなこともあった」と穏やかに振り返る日もあるだろう。しかし、少女であるそのとき、友人と楽しく過ごしながらも、自分の周りが世界のすべてだと思い、誰かと比べ、苦しみ、もがく。すべての人にとって、何かしら覚えのある感情ではないだろうか。「それも青春」と言ってしまえばそれまでだが、確かに存在していたあの頃に思いを馳せたくなる、とても素敵な物語だった。
彼女たちの未来はきっと輝いている、と信じている。
- まろ
- 身体の半分は酒と肴でできている販売担当。肉より魚派。お酒に弱くなってきたのが、最近の悩み。
- 趣味は料理。盛り付けのセンスは皆無。
- 読み物の好みは、青春ものとファンタジー。
「こんな10代、私にはなかった」と彼らの青春に嫉妬し、「こんな世界に逃亡したい」とファンタジーで妄想を膨らませる毎日です。
-
2022.03.04 金木犀とメテオラ 安壇美緒 著
-
2021.10.20 金の角持つ子どもたち 藤岡陽子 著
-
2021.04.20 ももこの世界あっちこっちめぐり さくら ももこ 著
-
2020.12.18 2.43 清陰高校男子バレー部① 壁井ユカコ 著
-
2020.09.18 桜小町 宮中の花 篠 綾子 著
-
2020.05.20 パラ・スター 〈Side 百花〉 パラ・スター 〈Side 宝良〉 阿部暁子 著
-
2019.12.19 りさ子のガチ恋♡俳優沼 松澤くれは 著
-
2019.09.20 悪寒 伊岡 瞬 著
-
2019.04.19 外道クライマー 宮城公博 著
-
2019.01.18 お迎えに上がりました。 国土交通省国土政策局幽冥推進課 竹林七草 著
-
2018.09.20 九つの、物語 橋本 紡 著
-
2018.05.02 幸せ嫌い 平安寿子 著