よみもの・連載

『沖縄。人、海、多面体のストーリー』 刊行記念座談会
――復帰50年、「沖縄を書く」ということ

森本浩平×松永多佳倫
進行:文庫編集部 江口洋
構成・文:宮田文久

松永
そのわからなさに敏感であるからこそ、椎名さんたちが書かれている“旅先での沖縄”という書き方は、リアリティーを担保できるんだと思います。県外の作家がシマンチュを主人公にして、その内面を書くということは、かなり困難な作業ですから。
森本
本当にそうですね。だからこそ、そうした県外の作家さんが書かれたものを沖縄の人が読まれたら、またまったく違う感覚で読まれるだろうと思うんです。それが、このアンソロジーのタイトルに掲げた「多面体」という言葉にも重なってきます。県内の人が読んでも、県外からの目線を感じることができますし、そこでの出会いも考えることができる。とても新鮮に感じていただけるんじゃないかな、と。県外の読者の方はもちろんのこと、誰もが沖縄の「多面体」を感じ取ってもらえるのでは、と思っているんです。
江口
このアンソロジーの前半は、県外から沖縄へ旅で来て、人と出会い、そこから沖縄の一面を浮き彫りにする――というかたちの小説群であるわけですね。さて、ここから一転、森本さんは3本のノンフィクションを選んでいらっしゃいます。沖縄の抱えている問題点、あるいは暗部も含めて向き合っていく作品が並んでいるのですが、まずは佐野眞一さんが伝説の政治家を描いた「スーパースター・瀬長亀次郎」です。
森本
この一編も収録された佐野さんの『沖縄 だれにも書かれたくなかった戦後史』は、大ベストセラーになった沖縄を知るバイブル≠ネんです。特に、沖縄移住者は必ずこの本を読む、というぐらい。
江口
ヤクザ、芸能界に密貿易まで、沖縄の裏側を徹底的に書いた一冊です。
森本
そのなかで描かれている瀬長亀次郎さんは、沖縄では誰もが知っている偉人。米軍占領下の沖縄で、ここまで正面からアメリカに立ち向かっていた人がいたわけで、すごく熱い話なんですよね。2019年には、『米軍が最も恐れた男 その名は、カメジロー』という映画が公開されヒットしましたが、もっと県外の方に亀次郎さんを知ってもらいたいですし、そうすればまた違う基地問題の見方が出てくるかもしれないと思っています。
松永
亀次郎さんのような熱いタイプは、いまの沖縄が求める真のリーダーなのではないか、とも感じますね。また、佐野さんは相当ギリギリの取材をして、その顛末も含めて書いていらっしゃいます。
江口
何度か佐野さんの沖縄取材に同行したことがありまして、アポなしで突撃取材されることも多いです。
松永
そうして書かれた本を、沖縄の人はどう読むんだろうと思ったら、あっぱれだというんですね。佐野さんの不退転の覚悟が見えて、だからこそたくさん読まれてきたのでしょうね。
プロフィール

森本浩平(もりもと・こうへい) 1974年生まれ。兵庫県加古川市出身。2009年にジュンク堂書店那覇店店長となる。
12年から大阪・千日前店店長を務めたのち、16年那覇店店長に再任、現在に至る。
沖映通り商店街振興組合理事。「沖縄書店大賞」「ブックパーリーOKINAWA」に携わり、「この沖縄本がスゴい!」賞を創設した。沖縄県内の読書普及に努め、これまで多数のメディアで本の紹介をしてきた。今回は編者として、巻末に「編者のことば」を寄稿。

松永多佳倫(まつなが・たかりん) 1968年岐阜県生まれ。琉球大学卒業。出版社勤務を経て、2009年8月より沖縄在住。
スポーツノンフィクションを始めとする著作を精力的に執筆。
16年『『沖縄を変えた男―裁弘義 高校野球に捧げた生涯』が第3回沖縄書店大賞を受賞。
著書に『まかちょーけ 興南 甲子園春夏連覇のその後』『偏差値70からの甲子園』『善と悪 江夏豊のラストメッセージ』『事情最速の甲子園 創始学園野球部の奇跡』『最後の黄金世代 遠藤保仁』『確執と信念 スジを通した男たち』など。

江口 洋(えぐち・ひろし) 集英社文庫編集部元編集長。このアンソロジーの企画立案者。

沖縄。人、海、多面体のストーリー
南国の楽園として人気の反面、米国統治から復帰して50年、未だ戦争の影響が残る現実。見る人、立つ位置により全く違う一面を見せる沖縄は、これまでどのように書かれてきたのか。沖縄初の芥川賞作家・大城立裕の作品を始めとする沖縄文学から、県外作家が沖縄を描いた小説、さらにはノンフィクションまで。沖縄の50年に光を当てる10編。この土地と人の持つパワーを感じ、新たな価値観が得られる一冊。

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