2020年 特別企画
『パラ・スター〈Side 百花〉』『パラ・スター〈Side 宝良〉』
著者 阿部暁子さん インタビュー
百花によって、半ば強引に企画された車いすテニスのジャパンオープンの観戦。しかし、直前に百花が虫垂炎(ちゅうすいえん)というアクシデントに見舞われたため、宝良は母親の紗栄子と二人で先乗り。手術を終えた百花は、遅れて両親と共に会場入りする。そこで、宝良は車いすテニスの魅力に、百花はプレーヤーたちが乗る車いすの美しさに、それぞれ目を奪われる。試合観戦後に、宝良は車いすプレーヤーとしての道を、そして百花は競技用車いすの製作者への道を歩んでいくことを決める。
- ──
- 百花と宝良、対照的な二人ですが、二人のキャラは初めから考えられていたのですか?
- 阿部
- 車いすを作る人と、車いすテニスプレーヤーを友だちにしたい、ということがありました。そして、自分が描けるとしたら男子ものよりも女子ものだろう、とも。車いすってかっこいい! 車いすテニスの物語を書こう、と思った時に、百花と宝良の二人は、ぽんと生まれた感じです。天才肌の気の強いプレーヤーと、その彼女から、ばかじゃないの? と言われるくらいお人好しの、車いすエンジニアを目指す女の子を書きたい、と思いました。百花は私がすごく感情移入できるタイプだし、宝良は私とは思考回路が全く違う。宝良は何があっても戦える、前を向いて進んでいけるタイプなので、自分で言うのもなんですが、こういう人はかっこいいな、と思いながら書きました。
- ──
- 車いすそのもののディテールが詳しく描かれていて、読み終わった後、実際に車いすを見てみたくなるほどですが、車いすに関しても取材されたのですか?
- 阿部
- はい。千葉県にあるオーエックスエンジニアリングという車いすメーカーさんに取材させていただきました。
- ──
- 百花が勤務する「藤沢製作所」のモデルですね。
- 阿部
- そうです。私自身、九州で行われたジャパンオープンの観戦に行ったのですが、選手たちが試合時に乗っている競技用車いすも、コートの外で乗っている日常用車いすも、どちらもオーエックスエンジニアリングさんの製品が多く使われていました。それだけ人気のあるメーカーさんなんですね。工場にお邪魔して車いすを見せていただいたんですが、車いすって本当に美しくてかっこいいんです。『パラ・スター』の中でも、ひたすら車いすがかっこいい、という気持ちで書きました。
- ──
- 車いすの製作過程も細かに描かれていて、車いすの精密さにも驚きました。
- 阿部
- 私は、車いすを製作される方たちって、障がいのある人の役に立ちたい、という奉仕の気持ちのようなものがどこかにあるのでは、と思っていたんです。でも、それは先入観でした。取材させていただいた時に、車いすエンジニアの方に、どうして車いす製作のお仕事に就かれたのか、と尋ねた答えが「車輪が好き」というものだったんですね。ちょっとびっくりしたのですが、あぁ、この人たちは、車が好きだから車を作るのと同じように、好きだから車いすを作るんだ、とすごく腑に落ちました。その時に、選手の方たちとのエピソードもうかがったのですが、対等なパートナーとして向き合っていることが、ありありと伝わってきました。そのことは、小説でもなるべくそのまま伝えられたらいいな、と思いました。もちろん、根底には、ユーザーファースト、プレーヤーファーストの信念があって、とことんプレーヤーに付き合って一緒に車いすを作りあげていくんだ、というエンジニアの姿勢があって、そういうことも伝えられれば、と。
- プロフィール
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阿部暁子(あべ・あきこ) 岩手県出身、在住。2008年『いつまでも』(刊行時『屋上ボーイズ』に改題)で第17回ロマン大賞を受賞し、デビュー。著書に、『室町少年草子 獅子と暗躍の皇子』『戦国恋歌 眠れる覇王』、「鎌倉香房メモリーズ」シリーズ、『室町繚乱 義満と世阿弥と吉野の姫君』『どこよりも遠い場所にいる君へ』『また君と出会う未来のために』などがある。
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吉田伸子(よしだ・のぶこ) 青森県出身。書評家。「本の雑誌」の編集者を経てフリーに。鋭い切り口と愛の溢れる書評に定評がある。著書に『恋愛のススメ』。
話題
沸騰!
- パラ・スター〈Side 百花〉
- 親友で車いすテニス選手の宝良のために、最高の競技用車いすを作りたい! その熱意とは裏腹に、焦りばかりが募る新米エンジニアの百花だが……。
3月
19日
発売
- パラ・スター〈Side 宝良〉
- 事故で車いす生活を余儀なくされた宝良。親友、百花の強引な誘いで車いすテニスと出会い、やがてパラリンピック出場を目標に掲げる。夢は叶うのか?
好評
発売中!
- 集英社文庫
阿部暁子さんの本
室町繚乱 義満と世阿弥と吉野の姫君 - 南朝の姫君、透子は北朝に寝返った武士、楠木正儀を連れ戻すため京の都に向かう。宿敵、足利義満や、猿楽師の美少年・世阿弥との出会いを経て、彼女が知った広い世界とは?