第4回「いきなり文庫! グランプリ」栄えある優秀作は、国仲シンジ『サイファー・ピース・ダンサーズ』だぁ!
- 北上
- さっき江口くんは『サイファー・ピース・ダンサーズ』を読んで、『DIVE!!』をまっさきに思い出したと言ったけれど、私は濱野京子さんの『フュージョン』をまっさきに思い出した。ダブルダッチを描いた長編で、2008年に講談社から出たけど、いまは絶版になっている。
- 江口
- あれは傑作ですよ。でも電子書籍はあるが、なぜか文庫にはなってない。
- 北上
- というわけで参考図書にするのは諦めましたけど。ええと、参考図書の最後の一冊が川端裕人『空よりも遠く、のびやかに』。これは文庫の解説を吉田伸子が書いているので、コメントを。
- 吉田
- これは地学部小説であり、クライミング小説ですね。
- 北上
- 一つ質問していい?
- 吉田
- なんでも聞いてください(笑)。
- 北上
- 地学部にクライミング班があるのは一般的なことなの? つまりすべての地学部にクライミング班があるの? それともそれはこの高校の特殊性なの? ようするに地学とクライミングの関係がよくわからない。
- 吉田
- それはこの高校の特殊性ですね。あこがれの先輩が地学部にいて、その先輩がクライミングをしていたから、クライミング班が立ち上がったわけです。
- 北上
- じゃあ、地学部に、たとえば海の中を探検する班があってもいいの?
- 吉田
- 地学部は、地球全体を研究するんだから海を探検してもいいんです。だから、海中探検班を誰かが立ち上げてもおかしくはない。というか、私、地学って地質学のことだと思っていたんですが、地球学なのだ、とこの本で知りました。
- 北上
- おれも地質学だと思っていた。
- 吉田
- これ、主人公の瞬が、入学式の日に一目惚(ぼ)れするシーンがいいんですよ。地学部の新人勧誘に足を向けた瞬が、隣で熱心に説明を聞いていた女子の横顔に胸がときめいてしまう。彼女が地学部に入部した流れで、瞬も入部することに。その後、彼女の後を追いかけた瞬が目にしたのが、空に手を差し伸べる彼女の姿。瞬の目には、彼女が天使のように映るんです。この時点で、決定的に瞬は恋に落ちてしまうわけですが。読んでいるこちらまで、キュンとなります!
- 北上
- それでは話を『サイファー・ピース・ダンサーズ』に戻しますが、ちょっと気になる箇所がある。具体的に言うと27ページの頭に「鼻のあたりまである長めの前髪と、度の強そうな分厚いメガネをかけているため、彼女の顔はほとんど見えない」という記述がある。日向あかりの描写だけど、これ、よくあるよね。で、髪をあげてメガネを外したら美少女だったというパターン。死ぬほど昔からあるんだけど(笑)、これ、いまでも有効なのかね。
- 江口
- 一定の有効性はあるんでしょうね。
- 北上
- こういうところにいまでも胸キュンする読者がいてもいいよ。でもさ、せっかくストリートダンスという新しいマイナースポーツを素材に小説を書こうとする作家なんだから、「新しい胸キュン」を模索してもいいんじゃないか。
- 吉田
- 私は逆だと思う。
- 北上
- 逆って?
- 吉田
- 物語の中心にあるのがストリートダンスという新しいものなので、そのまわりはあえてオーソドックスなものでまとめたんじゃないかと。
- 北上
- そうかなあ、定番すぎると思うなあ。それにもう一つ。ユウと対立するダンス部の部長がいるだろ。こいつがいつの間にかいなくなっている。決着がついてないよね。
- 吉田
- ダンスのうまいやつが現れたんで、負けたと思って引っ込んだんですよ。その意味では決着がついていると思う。