人はなぜ走るのか。 「なぜ山に登るのか」に対する答えとして「そこに山があるから」という登山の名言がありますが、「走る」に対してどんな答えがあるでしょう。 本書は日本で最も過酷な山岳レースといわれる「トランスジャパンアルプスレース(TJAR)」を取材したノンフィクションです。富山湾からスタートし、日本アルプスを縦走し、駿河湾に至るまで415kmを8日以内に走りきる常識やぶりのレースです。 しかも賞金、賞品は一切なし。 にもかかわらず、このレースに挑み、走る28名の男女がいるのです。 私は週末の朝、天気がよければ毎週走るようにしています。時間にして1時間程度のジョギング。登山は年に1回程度(ハイキングレベルですが)。そんな私でも読む前からこのレースの過酷さがひしひしと伝わり、手に汗をかいてしまうほどです。 参加者の平均年齢は40歳。主催者側は「遺書さえ書いて臨んでもらいたいくらいです」と強い覚悟を求めます。レース開始からハンパない緊張感です。荷物軽量化のために衣類の首・根本についているタグや洗濯表示のタグを切ることは当たり前。コンタクトレンズを持参する選手はケースの横側の余分なプラスチック部分を切り落とし、重さを減らします。事前に準備出来ることは全て準備をし、不安要素を全て取り払う。参加者たちの強いプロ意識が垣間見えます。 そしてこのレースには厳しく、細かいルールが設けられています。 ・山小屋、旅館などへの宿泊禁止。 ・他者からの差し入れを受けてはならない。 などなど「なるべく自力で完走を達成すべきである」というレース創設以来の理念と伝統が引き継がれています。 累積標高差が富士登山7回分あるこのレース中にどんな困難が待ち受けているのか!? 答えは本書のなかにあります! 強烈な眠気と闘い、幻覚・幻聴など極限まで己を追い込んでいく選手たちがそこにいます。やりたいことが見つからず悩んでいる人、自分自身に活をいれたい人が読めば、テンションが上がってそのまま走り出してしまうかもしれません。 選手一人、一人に起こる予想を超えるドラマを是非、この本を手にとって体験してください!