「あ、はい……。先般、あのような結果となり、やはり小笠原とのことは、われらが止めるべきであったと思いました。武田の若君様が跡を嗣（つ）がれて早々に、あのような出来事があったのでは、さぞかし諏訪に対して御立腹なのではありませぬか？」
「御当代は実に冷静で聡明な君なので、慌てず騒がず、しっかりと状況を見つめておられまする。その手腕がどれほどのものか、前の戦で諏訪の方々も目の当たりにされたのではありませぬか」
「はぁ、さようにござるが……」
「ただ、御屋形様は頼重殿に深く失望なさっておりまする。せっかく、諏訪家と縁組できたのに、あまりに水くさき振舞だと」
「……やはり、頼重殿と戦になりまするか？」
　守矢頼真は探るように昌俊を見つめる。
「さて、どうでありましょう。されど、両家の盟約に罅（ひび）が入ってしまったことは確かにござる。逆に、お訊ねいたしたい。諏訪大社の方々は、これからのことをいかように考えておられるのか？」
「わ、われら神長家は先ほども申しました通り、小笠原のことには反対でありましたゆえ、何とか武田家との関係を修復できぬかと考えておりまする。されど、矢島満清がいつも邪魔立てをいたしますので、上社の中で意見がまとまらなくなりまする。あの者がいなければ、かようなことにはならなかったのでは」
「ほう、上社の禰宜太夫が問題だと」
「はい。こたびのことにしても満清が頼重殿をけしかけた節がありまする」
「ならば、矢島殿を黙らせれば、上社の意見はまとめていただけると？」
「できると……思いまするが」
「では、下社はいかがか？」
「下社……。こたびのことでも、下社には小笠原の軍勢を通すことに反対していた者が多かったと聞いておりまする。されど、下社の大祝は頼重殿が兼任しておりますので、反対した者たちを押さえ込んだのではありませぬか」
「金刺堯存殿は、いかような態度を取られたのか？」
「えっ!?」
　守矢頼真は驚きの表情となる。
「……堯存殿は未だ大祝の末裔（まつえい）を自称しているだけで、すでに下社への指図ができる立場ではありませぬ。萩倉（はぎくら）に戻れただけでも僥倖（ぎょうこう）にござりましょう。もちろん、頼重殿に対しては一事が万事、反対だとは思いまするが」
「今後は上社と下社の意見がまとまらねば、当家としても諏訪に対する態度が定まりませぬ。ところで、禰々様はいかがなされておりまするか？」
　その問いに、守矢頼真はさらに驚きながら答える。