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対談 桜木紫乃氏×東山彰良氏

対談 桜木紫乃氏×東山彰良氏

東山
桜木さんはカルーセル麻紀さんと交遊があって、カルーセル麻紀さんをモデルにしたりもなさって。
桜木
そうですね。モデルにしておきながらフィクションで書いたという、すごいひねくれたことをやったんですけれども、麻紀さんももともとストリッパーなんですよ。不思議なことに、同じ北海道の釧路出身で、カルーセル麻紀さんは同じ中学校の先輩なんです。そのふたりしてストリップ大好きという、釧路って一体どんな町なんだろうと。
東山
どんなところなの。
桜木
だから、ふたりでどこか行って自己紹介するときに、「北海道が生んだ猛獣と珍獣です」と言っているんですけどね。
東山
そもそもストリップを見に行ったきっかけって何だったんですか。
桜木
これは知る人ぞ知る、知らない人は知らないんですけれども、渋谷の道頓堀劇場が生んだ、清水ひとみさんというストリップ界のアイドルがいらっしゃいまして。その清水ひとみさんが引退されたあと、北海道で劇場を開いたときに、北海道新聞に彼女の聞き書きコラムが載ったんです。それを読んで、もう、泣けて泣けて……。この人に会ってみたいと。それが始まりです。
東山
それでわざわざ清水さんを見に行って、それではまったという。
桜木
清水さんはもう引退されていたんだけど。初めて見たストリップは、裸のコスチュームを着ているレビューでした。宝塚みたいだったんですね、私にとっては。不思議ですよね。
東山
それって何年前ですか。
桜木
二十年近く前ですね。でも、最近は女の子たちがストリッパーさんを追いかけているんですって。それって小倉もそうですか?
東山
そうなんですよ。関東のほうから追いかけてきて、一緒に写真を撮ったり、差し入れを渡したりとかしていました。
桜木
ストリップを嫌だと思う女性もいるとは思うんですね。でも、脱いでいるその裸は、どんなドレスを着ているよりも綺麗(きれい)だと思っていて――何を語っているんだ、私は。
東山
いいと思います。メールでも、ストリップを見続けるうちに、ストリッパーさんの嘘(うそ)が見えてくる。でも、この瞬間だけは間違いなく真実なんだという言葉をいただいたんですけど、それはストリップを見ながらずっと考えていたことですよね。一体どういうことなんだろうと思いながら取材しました。
桜木
嘘、ね。私たちも嘘書いているわけじゃない。
東山
そうですね。
桜木
本当のことを書いたことは、短いエッセイの果てまでいろいろ思い返してみても、ないんですよね。わかりやすく誰かに伝えようと思うと、どうしても嘘は入ってくるんですよね、文章ってね。不思議だと思わない?
東山
それはもう間違いないですね。
桜木
伝えようと思って一生懸命になると、嘘をつかなきゃいけない。いつもこのジレンマみたいなところでやっていて。
これは、本当に持論だけど、カニかま論というのがあってね。おいしいカニサラダを作るためには、カニの本物の身を入れるほかに、カニかまぼこを入れたほうがおいしく仕上がるんですって。それを聞いたときに、ああって腑(ふ)に落ちて。あくまでもカニかまぼこを入れないで書いているのがノンフィクションで、私たちはかなりの割合でかまぼこ入っているなと思ったの。人工的なね。
東山
うんうん、確かに。
プロフィール

桜木紫乃(さくらぎ・しの) 1965年北海道生まれ。2002年「雪虫」で第82回オール讀物新人賞を受賞。07年同作を収録した単行本『氷平線』でデビュー。13年『ラブレス』で第19回島清恋愛文学賞、同年『ホテルローヤル』で第149回直木賞、20年『家族じまい』で第15回中央公論文芸賞を受賞。他の著書に、『硝子の葦』『起終点(ターミナル)』『裸の華』『緋の河』など。近刊に『俺と師匠とブルーボーイとストリッパー』がある。

東山彰良(ひがしやま・あきら) 1968年、台湾台北市生れ。9歳の時に家族で福岡県に移住。2003年、「このミステリーがすごい!」大賞銀賞・読者賞受賞の長編を改題した『逃亡作法 TURD ON THE RUN』で、作家としてデビュー。09年『路傍』で大藪春彦賞を、15年『流』で直木賞を、16年『罪の終わり』で中央公論文芸賞を受賞。17年から18年にかけて『僕が殺した人と僕を殺した人』で、織田作之助賞、読売文学賞、渡辺淳一文学賞を受賞する。『イッツ・オンリー・ロックンロール』『女の子のことばかり考えていたら、1年が経っていた。』『夜汐』『越境』『小さな場所』『どの口が愛を語るんだ』『DEVIL’S DOOR』など著書多数。訳書に『ブラック・デトロイト』(ドナルド・ゴインズ著)がある。