- 『隠蔽捜査』 今野敏
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あらすじ
媚びない、ブレない――竜崎伸也は警察官僚、いわゆるキャリアである。現在は警察庁長官官房でマスコミ対策を担っている。その朴念仁ぶりに、周囲からは「変人」という称号が与えられた。だが、彼はこう考えていた――エリートは、国家を守るため、身を捧げるべきだ。私はその信条に従って生きているにすぎない――と。組織を揺るがす連続殺人事件に、竜崎は真正面から対決する。警察小説の歴史に新たな一章を加えた、平成を代表する傑作。第27回吉川英治文学新人賞受賞作。
今回は警察小説。松嶋智左『流警 傘見警部交番事件ファイル』に決定!
- 江口
- 本書で描かれているテーマの一つが、警察の隠蔽体質。その流れで、参考図書を今野敏さん『隠蔽捜査』にしました。浜本さん、どうですか?
- 浜本
- 『隠蔽捜査』、完璧ですよね。前回、藤沢周平さんの『蝉時雨』が青春時代小説の金字塔だ、という話が出ましたけど、『隠蔽捜査』は警察小説のある種の金字塔だと思います。
- 吉田
- あぁ、わかります。主人公の竜崎というキャラクターを作り出した段階で、勝ちですよね。
- 江口
- 同感です。
- 浜本
- 東大出身の典型的な警察キャリアなんですが、なんというか、私たちが、警察キャリアはこうあって欲しい、というある種の理想型でもあるんですよね。
- 吉田
- 公僕、という言葉がこんなにハマるキャラクターは他にいない。これ、シリーズ第一作なんですが、シリーズの中でも群を抜いていいですよね。竜崎の変人っぷりが際立っている。原理原則を重んじる竜崎には、隠蔽という二文字はないんですよね。そこがいい。
- 江口
- 現場の刑事ではなく、警察官僚をメインにした警察小説、という点でも画期的だったと思います。
- 浜本
- 画期的といえば、事件だけではなく、家庭人としての竜崎のこともちゃんと描かれていて、そこもいいんですよね。竜崎は警察キャリアとしては有能だけど、逆に言えば仕事にしか興味がない。家庭での主導権は奥さんにある。
- 吉田
- 人間の機微には疎い竜崎に代わって、家庭は奥さんがしっかり守っている。でも、そこに竜崎の居場所がちゃんとある、というのもいいです。「父親としては無能ね」と奥さんに言われた竜崎が、後々「無能な父親にしてはよくやったわ」とほめられるエピソードがあって、それが本当に絶妙なんですよ。
- 浜本
- 竜崎のキャラも巧(うま)いけど、奥さんのキャラもいい。
- 吉田
- いいですよね。これ、四十六刷となっているんですが、その数字に頷けます。
- 浜本
- 個人的には、竜崎に総理大臣を務めて欲しい。
- 吉田
- それ、賛成!
新潮文庫 文庫初版
2008年2月1日刊
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