第一回優秀作決定、堀川アサコ『定年就活 働きものがゆく』!
- 北上
- 最初に、この『定年就活 働きものがゆく』をどう読んだのか、簡単な感想からいこうか。まず私から言いますが、堀川アサコさんの作品を読むのはこれが初めてなんですね。で、面白かったんで、他の作品も読んでみようと調べたら、多いんですよ作品が。2006年に『闇鏡』(『ゆかし妖かし』と改題 新潮文庫nex)という作品で日本ファンタジーノベル大賞の優秀賞を受賞してデビューした作家なので、ええと、もう16年か。とても全部は読めないので、地元の書店に行って棚にあった角川文庫の5冊を買ってきて、そのうち2冊を読みました。
- 江口
- その作品は?
- 北上
- 『ある晴れた日に墓じまい』と、『うさぎ通り丸亀不動産』。うまいんだよねこれが。2時間をきっちり楽しませるプロの仕事ですよ。感心しました。
- 江口
- この『定年就活 働きものがゆく』についての感想は?
- 北上
- あとで言う(笑)。
- 吉田
- 私は最初のころのファンタジーを数冊読んでいて、それ以外の作品を知らなかったので、とても新鮮でした。
- 北上
- あ、そうなんだ。いまでもファンタジーをお書きになってるの?
- 江口
- 書いてますね。この『定年就活 働きものがゆく』が面白かったので、「幻想」シリーズ(講談社文庫)をいま読み始めました。デビュー作の『闇鏡』も読みたいんですけど、これは手に入らなかった。
- 北上
- いろんなものをお書きになっているんだ。では、そろそろ内容に入っていきましょうか。この『定年就活 働きものがゆく』の内容をまだ何も紹介していないので、ええと、これは主人公の女性が60歳直前に、本当は再雇用の道もあったんだけど、売り言葉に買い言葉で会社を辞めちゃって、再就職先を探す小説です。男性が定年で会社を辞めて再就職先を探すという小説は他にもあると思うんだけど、定年で辞めた女性が再就職先を探すという小説はあったの?
- 江口
- まったくないとは断言できませんが、珍しいですよね。
- 北上
- この『定年就活 働きものがゆく』の主人公は花村妙子という女性で、定年で会社を辞めたあと、再就職先を探してね、実際にいくつかの仕事につくんだけど、問題は、なぜ花村妙子が再就職先を探すのかということなんだよ。
- 江口
- ともだちから質問される場面がありましたね。
- 北上
- そうそう。再就職先がなかなか見つからないと嘆くと、なんで働く必要があるの。あなたは困ってないでしょと。そのときにこのヒロインは言うわけ。世間とつながっていたいんだと。この小説のテーマがここにあるよね。つまり仕事とは何なのか、ということだよ。花村妙子にとっては、世間とつながることこそが仕事なので、だから必ずしも正社員でなくてもいい。
- 江口
- 従弟(いとこ)がやってる惣菜屋で働くくだりがありますが、あれはアルバイトですね。
- 北上
- そう。最後にたどりつく惣菜屋がアルバイトというのは象徴的だと思う。従弟夫婦と一緒に働くだけで、彼女は楽しいんだよ。
- 吉田
- ちょっといいですか。
- 北上
- なに?
- 吉田
- 最後は惣菜屋ではないです。
- 北上
- えっ?