よみもの・連載

第一回優秀作決定、堀川アサコ『定年就活 働きものがゆく』!

江口
参考テキストとしてお渡しした3作はどうでしたか。重松清さん『定年ゴジラ』と、内館牧子さん『終わった人』は定年ものとして、辻村深月さんの『朝が来る』は特別養子縁組制度ものとして選んだ先行作品ですけど。

ここからこの3作について、再読した感想が延々と続くが、話がどんどん飛んでいくのでここでは割愛。『終わった人』が映画化されたとき、主人公の田代を演じたのが舘ひろしだったという吉田さんの発言に、小説のイメージと全然違うだろと北上さんが突っ込んだこと。同じく、『終わった人』に出てくる田代の友人、ボクシングのレフェリーが北上さんを思わせると吉田さんが発言し、彼の人物造形がいいと3人の意見が一致したことを書くにとどめておく。3作ともに大傑作なので、これらに比べては酷だという結論も付記しておきたい


講談社文庫 文庫初版
2001年2月15日刊

『定年ゴジラ』 重松清

あらすじ

開発から30年、年老いたニュータウンで迎えた定年。途方に暮れる山崎さんに散歩仲間ができた。「ジャージは禁物ですぞ。腰を痛めます。腹も出ます」先輩の町内会長、単身赴任で浦島太郎状態のノムさん、新天地に旅立つフーさん。自分の居場所を捜す四人組の日々の哀歓を温かく描く連作。「帰ってきた定年ゴジラ」収録の完成版。

コメント

定年後の男性たちの描き方が本当に見事、読み直して、こんなにいいヤツばかり出てきたのを覚えていなくて新鮮だった、という意見が。

講談社文庫 文庫初版
2018年3月15日刊

『終わった人』 内館牧子

あらすじ

大手銀行の出世コースから子会社に出向、転籍させられ、そのまま定年を迎えた田代壮介。仕事一筋だった彼は途方に暮れた。生き甲斐を求め、居場所を探して、惑い、あがき続ける男に再生の時は訪れるのか? ある人物との出会いが、彼の運命の歯車を回す――。日本中で大反響を巻き起こした大ヒット「定年」小説!

コメント

主人公は鼻持ちならないが、「仕事を離れて、スーツにふさわしい息をしていない男には、スーツは似合わなくなるのよ」という銀座のクラブのママの台詞など細部が秀逸という意見が出ました。

文春文庫 文庫初版
2018年9月10日刊

『朝が来る』 辻村深月

あらすじ

長く辛い不妊治療の末、特別養子縁組という手段を選んだ栗原清和・佐都子夫婦は民間団体の仲介で男子を授かる。朝斗と名づけた我が子はやがて幼稚園に通うまでに成長し、家族は平穏な日々を過ごしていた。そんなある日、夫妻のもとに電話が。それは、息子となった朝斗を「返してほしい」というものだった――。

コメント

「特別養子縁組」という現実にもある制度を使いつつ、あくまで養子になる「子供のための制度」だということを丁寧に描いていてさすが、辻村さんのうまさがとにかく際立つというコメントが。

光文社新書 初版
2015年1月20日刊

参考資料
『「赤ちゃん縁組」で虐待死をなくす 愛知方式がつないだ命』 矢満田篤二 萬屋育子

愛知県の児童相談所では、産みの親が育てることができない赤ちゃんを、特別養子縁組を前提とした里親委託によって、生まれてすぐから家庭の中で育てる取り組みを30年来続けてきた。

なぜこの前例なき取り組みが生まれたか、特別養子縁組制度が生まれるに至った流れ、何が赤ちゃん・子供に求められているのか丁寧にまとめた1冊。参考テキスト以外に「特別養子縁組制度」を理解する資料として、出席者は読んで座談会に臨みました。


江口
私の結論としては、定年ものに特別養子縁組制度という要素を足したという点が、この『定年就活 働きものがゆく』のすごさだと思う。
北上
妙子と真奈美の母娘を照射するために養女「瑠希」を出して、仕事とは何かというテーマを照射するこめに「アイドルちゃん」を登場させるという構成の妙が素晴らしい、というのが私の結論です。
江口
それではそろそろ結論を。
北上
堀川アサコさんの『定年就活 働きものがゆく』を、年度末に決める「いきなり文庫! グランプリ」の最終候補に残すか、それとも今回の優秀作にとどめるか。それを決定しなければならないんですが、私としては最終候補として残したいと考えます。異議はありませんか?
江口
吉田
異議ありません!

2022年4月12日収録 座談会は感染対策に気をつけて行いました。

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