第7回いきなり文庫GP座談会
- 吉田
- では、私からいきますね。私は面白く読みました。プロの釣り師だった主人公が、釣り師としての仕事がだんだん減って来て、さて、どうしようかとなって、民宿を営む実家に戻ってくる。主人公にしてみれば、両親も年老いて来たし、帰ってやるか、くらいの気持ちでいたんですが、いざ帰ってみると、え? なんで帰って来たの? と(笑)。この辺りの感じはリアルでした。ただ、主人公が民宿経営を手伝い始めてからの流れが、うまくいきすぎるんですよ。周りの人もいい人ばかり。なにかちょっとトラブルが起きても深刻にはならずに、結果オーライ、みたいな。そこはちょっと甘くないかな、と。
- 浜本
- これ、帯に「夢破れたアラフォー男と、希望をなくした不登校の女子中学生。『負け組』コンビが奇跡を起こす!」とあって、まんま、そういう物語なんですよね。だから、うまくいくのはいいと思うし、奇跡といってもそんなに大きなものでもないから、そこは気にならないんだけど、不登校の女子中学生の描写は、ちょっと簡単すぎる気はしました。田舎の自然と釣りによって、傷ついた心が癒やされていく、というのはいいんですが。
- 江口
- 私はすごく面白かったです。ただ、私も浜本さんと同様で、女子中学生の描き方がちょっと気になりました。
- 吉田
- 女子中学生は、主人公が付き合っている女性の娘さんなんですよね。
- 江口
- 主人公とは血が繋(つな)がってないわけで、その辺りのことも思春期の女の子にとっては、屈託があるはずなんですが、そこは描かれていない。
- 浜本
- そもそも、不登校になった理由も描かれていないんですよね。敢(あ)えて書いていないんだとも思うんですが。
- 吉田
- そこを書いてしまうと辛(つら)い話になってしまうだろうし、ね。
- 浜本
- 女子中学生が、こんなに簡単におじさんに心を許すかなぁ、と娘のいる身としては思ってしまう(笑)。
- 吉田
- あと、この主人公は、みんなから温かく迎えられているけれど、田舎というのは、普通はもう少し排他的なところもあるのでは、とも思いました。
- 江口
- 私は、この主人公の母親のキャラが良かったです。佐賀の実家に帰って来てやった感を出している主人公に対して、がつんと言うところとか。これ、内容は繋がっていないんですが、他にも『ひなた弁当』、『ひなたストア』という作品があって、どの作品も、中年男が主人公で、話の骨子としては同じなんですよ。
- 吉田
- アラフォー男の、人生仕切り直し、みたいな?
- 江口
- そう、そう。
- 浜本
- タイトルに「ひなた」という言葉が入るのはいいですね。
- 吉田
- 作者は、『どろ』、『かび』を書かれた方ですよね。あちらは“巻き込まれ型”小説。
- 江口
- 色々、引き出しの多い書き手なのだと思いますが、私は「ひなた」シリーズが好きですね。『ひなた弁当』も読んでみたんですが、良かったです。部数的には『ひなた弁当』が一番売れているみたいですね。
- 浜本
- 十三万部はすごいですね。
- 吉田
- 若干、出来すぎなかんじはありますが、「ひなた」なんだから、これでいいのかな、と。
- 浜本
- おじさん讃歌ということで、いいと思います。
- 江口
- “おじ讃歌”ですね(笑)。