よみもの・連載

2021年 新春特別企画 堂場瞬一さんインタビュー

聞き手・細谷正充さん
構成・文/宮田文久 撮影/織田桂子

細谷
今、警察小説のシリーズはどれくらい抱えていらっしゃるんですか?
堂場
アクティブに動いているのは〈警視庁追跡捜査係〉シリーズ(2010年〜、ハルキ文庫)と、〈警視庁犯罪被害者支援課〉シリーズ(2014年〜、講談社文庫)、そして〈ラストライン〉シリーズ(2018年〜、文春文庫)の3本です。
細谷
未解決事件を専門に追う「警視庁追跡捜査係」は、架空の部署として設定されたんですよね。
堂場
ええ。連載をやっている最中に、本当に同種の部署ができちゃったんですが。シリーズとしては一番手が込んでいて、毎回地獄を見ていますね。対照的なふたりの刑事がいて、ふたつの物事が実はつながっていたり、ひとつの事件がふたつに分かれたり、ちょっと凝らないといけないんです。僕は普段どちらかというと人間ドラマで見せるタイプなので、常に難儀しています(笑)。
細谷
正反対の性格の人物がコンビを組んでいるという点も含めて、このシリーズが堂場さんの中でもっともオーソドックスな警察小説だなという印象を受けます。
堂場
そうそう、バディものの定番のやり方ですよね。そうした定番をひとつ持っていたい、という気持ちもあるんですよ。
細谷
書くのに苦労しているといいながら2013年、『警視庁追跡捜査係 刑事の絆』(ハルキ文庫)と『凍る炎 アナザーフェイス5』(文春文庫)で、出版社の壁を越えてシリーズをコラボさせていますよね(笑)。
堂場
しかも今年は作家デビュー20周年企画として、今動いている〈警視庁追跡捜査係〉、〈警視庁犯罪被害者支援課〉、〈ラストライン〉の3大シリーズを完全コラボさせて、登場人物をそれぞれ乗り入れさせるんです。同時並行で、世界観も同じにしてシリーズを展開しているからこそできることなのですが、書く人間としてはさらに面倒くさいことになりました(笑)。
細谷
それは、とても手間がかかるのではないですか?(笑)
堂場
ハハハ、もう大変でした。すべて書き終わって、精査している最中です。
細谷
では今年のうちに出るのはほぼ確実、と。
堂場
なんとか大丈夫だと思います。
細谷
それは非常に楽しみですね。刑事ものでは別に、『焦土の刑事』から始まる「昭和」の警察を描いたシリーズ(2018年〜、講談社)がありますね。
堂場
実はあのシリーズはこのまま「平成」へと突入していく計画があるのですが、僕としてはこうした長いスパンで時代を描いていくということに、非常に興味があります。
細谷
堂場さんの作品を読んでいてよく思うんですけれども、昭和史を扱っているイメージが強いんですよね。
堂場
今という時代がなぜこのようなことになっているのか、そのベースとして、昭和以降の歴史の謎を考えているところがあります。そのあたりをうまく小説の形で表せないかな、という企みはずっと持っていますし、特に最近はその傾向が強いですね。
細谷
そうした意識は、新聞社を舞台にした『警察(サツ)回りの夏』『蛮政の秋』『社長室の冬』のメディア三部作(2014〜2016年)に顕著ですよね。「劣化」という言葉をテーマとして挙げられていた記憶があります。
堂場
はい。言葉を選ばずにいえば、「俺ら、みんなバカになってねえか?」と、ものすごく心配なんです。ひとつの例ではありますが、旧制高校の時代の人たちのすさまじい教養に比べて、僕たちはいったい何を学んできたのだろうか、と。そうした疑問が、メディア3部作の中ではちょいちょい出ています。
プロフィール

堂場瞬一(どうば・しゅんいち) 1963年茨城県生まれ。青山学院大学卒業。会社勤務のかたわら執筆した「8年」で第13回小説すばる新人賞受賞。スポーツ青春小説、警察小説の分野で活躍中。著書に『いつか白球は海へ』『検証捜査』『複合捜査』『解』『共犯捜査』『警察回りの夏』『オトコの一理』『時限捜査』『グレイ』『蛮政の秋』『凍結捜査』『社長室の冬』など多数。

細谷正充(ほそや・まさみつ) 1963年埼玉県生まれ。時代小説とミステリーを中心に、文芸評論家として活躍。著書に『必殺技の戦後史』『少女マンガ歴史・時代ロマン決定版 全100冊ガイド』『歴史・時代小説の快楽 読まなきゃ死ねない全100作ガイド』、編著に『くノ一、百華』『きずな 時代小説親子情話』『時代小説傑作選 土方歳三がゆく』など。

江口洋 堂場さんの元担当編集。

出島みおり 集英社文庫編集長

集英社文庫の堂場瞬一作品。刊行順は下段→上段、左→右。一番初めの『8年』は2004年刊。

文庫化を控えている単行本作品。『ホーム』は19年ぶりに書いた『8年』の続編。