よみもの・連載

2021年 新春特別企画 堂場瞬一さんインタビュー

聞き手・細谷正充さん
構成・文/宮田文久 撮影/織田桂子

細谷
深読みすると、シリーズ第1作の『警察回りの夏』では、主人公である記者による誤報、つまり新聞記者の劣化が扱われていると思うんです。そしてシリーズ最終作の『社長室の冬』になると、もはや企業自体が劣化している、というように感じられます。
堂場
おっしゃる通りです。社員ひとりひとりと社全体、どちらがどちらに影響を与えているのかはよくわかりませんが、組織の下のレベルから始まって、結局は上層部も駄目になっている、という非常に悲しい話なんですよ。冬で終わっていますから、春が来ない3部作なんです。
細谷
やはり、そうしたさまざまなレベルの劣化を描かれていたのですね。
堂場
バブル期の1989年から2011年までを描いた『解』(2012年)という小説を出して、その問題意識がメディア3部作へずっとつながっていった感じですね。王道としての警察小説を書いて皆さんに楽しんでいただきながら、一方でまた別の意味で自分の芯、ど真ん中であるこうした作品たちを書く。そこで自らを進化させつつ、読者の皆さんにも「エッ!?」と驚いてもらいたい、と思っているんです。『グレイ』(2014年)や『Killers』(2015年、講談社)といった、純粋たる異色作もありますが(笑)。共にいわゆる「悪」を描いた作品ではあるのですが、僕としては本当に「悪」なのかよくわからない。むしろ「人間の本性」の話なのでは、という気がしています。
細谷
まったく傾向の異なる作品としては、『バビロンの秘文字』(2016年、中央公論新社)もありますね。古代オリエント文明の秘密をテーマに、現代日本からヨーロッパ、中東までを舞台にした冒険小説でした。「堂場さんはこういう作品も書くんだ!」と新鮮な驚きがありました。
堂場
昔の冒険小説のようなものがやりたかったんです。僕、すごく古い話が好きなんですよ。小さい頃の夢は、考古学者かプロレスラーだったぐらいで……(笑)。またチャンスがあれば、ああいう小説はやってみたいですね。
細谷
こうしたさまざまな試みの中に、昨年末に刊行された〈捜査〉ワールドの最新作『共謀捜査』があるわけですね。シリーズ第1作の『検証捜査』は、本庁からの特命により全国各地から招集された刑事たちが、チームを組んで警察内部の暗部に切り込んでいく作品でした。6作目となる『共謀捜査』は、フランスと日本それぞれを舞台に事件が進展し、かつてのチームの面々が活躍します。
堂場
まさにワールドワイドです。シリーズではなくワールドといっていることには理由があるんですね。シリーズが時間軸に依(よ)るものだとすれば、もちろんワールドでも時間は経(た)っているのだけれど、むしろ横に広がっていくところがある。〈捜査〉ワールドは、主人公さえ作品ごとに異なりますし、僕がこれまで手がけてきたシリーズとは、やはり違う色合いのものだと思います。僕も〈捜査〉ワールドを書いてきて、「ああ、こういう書き方ができるんだな」と学んだところがあるんですよ。
細谷
といいますと?
堂場
警察小説というジャンルのベースになっているエド・マクベインの〈87分署〉シリーズがまさにそうなのですが、複数の主人公による作品展開ですね。
細谷
複数の作家が同じ物語世界を舞台にした作品を手がけることを「シェアード・ワールド・ノベルズ」といいますが、〈捜査〉ワールドを読むと、堂場さんはひとりでそれをなさっているような感じがしますね。
堂場
その感覚を勉強できたので、収穫をまた新たな小説につなげて、集英社から出す予定です。……といっても、まだ1行も書いていないのですが(笑)。締め切りは夏ぐらいだと思うので、年内に出せればいいかな、というスケジュールですね。
細谷
それもまた楽しみですね。
プロフィール

堂場瞬一(どうば・しゅんいち) 1963年茨城県生まれ。青山学院大学卒業。会社勤務のかたわら執筆した「8年」で第13回小説すばる新人賞受賞。スポーツ青春小説、警察小説の分野で活躍中。著書に『いつか白球は海へ』『検証捜査』『複合捜査』『解』『共犯捜査』『警察回りの夏』『オトコの一理』『時限捜査』『グレイ』『蛮政の秋』『凍結捜査』『社長室の冬』など多数。

細谷正充(ほそや・まさみつ) 1963年埼玉県生まれ。時代小説とミステリーを中心に、文芸評論家として活躍。著書に『必殺技の戦後史』『少女マンガ歴史・時代ロマン決定版 全100冊ガイド』『歴史・時代小説の快楽 読まなきゃ死ねない全100作ガイド』、編著に『くノ一、百華』『きずな 時代小説親子情話』『時代小説傑作選 土方歳三がゆく』など。

江口洋 堂場さんの元担当編集。

出島みおり 集英社文庫編集長

集英社文庫の堂場瞬一作品。刊行順は下段→上段、左→右。一番初めの『8年』は2004年刊。

文庫化を控えている単行本作品。『ホーム』は19年ぶりに書いた『8年』の続編。