2021年 新春特別企画 堂場瞬一さんインタビュー
聞き手・細谷正充さん
構成・文/宮田文久 撮影/織田桂子
- 江口
- 日常の描写というと、源氏鶏太さんのように、かつてはサラリーマン小説の時代がありましたよね。そうしたものの受け皿に、警察小説がなってきたんじゃないか、と感じるんです。
- 細谷
- 警察小説がサラリーマン小説の役割を担ってきた部分は、たしかにあると思います。
- 堂場
- 警察官は全国津々浦々にいて、しかも仕事が市民の生活に密着していますから、意外と身近な存在なんですよね。しかもそうした彼らが組織の中でモニャモニャと苦労しているとなれば、自分を投影しやすいのではないでしょうか。難しいんですけどね、フィクションとしての夢を見るエンタメ小説で、そうしたことを描くということは。
- 細谷
- ただ、今の時代のエンターテインメントで純粋に夢だけ書いていると、ファンタジーになっちゃいますから。現実の中で夢を見ようと思ったら、どこかに苦みがないと、逆におかしいじゃないですか。
- 堂場
- たしかにそうですね。
- 細谷
- そういうところのバランスが堂場さんは非常にいいので、これだけ人気を誇っていらっしゃるのは、やっぱり当然だと思います。
- 堂場
- いやいや、恐縮です。そのバランスを踏まえつつ、これからもやってみたいことだらけなんですよ。昨年末に「小説現代」(講談社)でニューヨークを舞台にした私立探偵小説も書けましたし、この1月には単行本で『刑事の枷』(講談社)が、文庫で『時効の果て 警視庁追跡捜査係』(ハルキ文庫)が出ます。先ほど触れたように、年内には集英社での新作発表も予定している。3年後、60歳を迎える頃には、通算の作品数が200冊に到達しているんじゃないでしょうか。
- 細谷
- 我が家の本棚では堂場さんの本がどんどんと増えていくので、嬉しい悲鳴ではあります(笑)。
- 堂場
- すみません(笑)。書くべきこと、書きたいことは、まだまだあります。あと30年ぐらいは、頑張りたいなと思っているんです。
- 出島
- いえいえ、20年、30年といわず、40年でも50年でも。まずは今年、集英社文庫で始まる新シリーズを楽しみにしています! 素晴らしい20周年になりますように。細谷さんも、昨年の『時代小説傑作選 土方歳三がゆく』のような名アンソロジストの技を、今年もよろしくお願いします。本日は、新春のお忙しい中、本当にありがとうございました。
- プロフィール
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堂場瞬一(どうば・しゅんいち) 1963年茨城県生まれ。青山学院大学卒業。会社勤務のかたわら執筆した「8年」で第13回小説すばる新人賞受賞。スポーツ青春小説、警察小説の分野で活躍中。著書に『いつか白球は海へ』『検証捜査』『複合捜査』『解』『共犯捜査』『警察回りの夏』『オトコの一理』『時限捜査』『グレイ』『蛮政の秋』『凍結捜査』『社長室の冬』など多数。
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細谷正充(ほそや・まさみつ) 1963年埼玉県生まれ。時代小説とミステリーを中心に、文芸評論家として活躍。著書に『必殺技の戦後史』『少女マンガ歴史・時代ロマン決定版 全100冊ガイド』『歴史・時代小説の快楽 読まなきゃ死ねない全100作ガイド』、編著に『くノ一、百華』『きずな 時代小説親子情話』『時代小説傑作選 土方歳三がゆく』など。
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江口洋 堂場さんの元担当編集。
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出島みおり 集英社文庫編集長
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集英社文庫の堂場瞬一作品。刊行順は下段→上段、左→右。一番初めの『8年』は2004年刊。
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文庫化を控えている単行本作品。『ホーム』は19年ぶりに書いた『8年』の続編。