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2022年新春対談 野口卓×上田秀人 奮闘記に奮闘する私たち

2022年新春対談 野口卓×上田秀人
奮闘記に奮闘する私たち

 
構成/宮田文久 撮影/織田桂子


江口
新年明けましておめでとうございます。2022年の年始めにあたって、「奮闘記」と題された時代小説シリーズをそれぞれ執筆されているおふたりに、ぜひ語り合っていただきたいと思います。「奮闘記」に奮闘する日々や胸のうちを語り合う、いわば「奮闘記対談」として、私たち読者がこれからの一年に向かっていくエネルギーをいただければと思います。おふたりは初対面ということですが、どうぞよろしくお願いいたします。
野口
初めまして、どうぞよろしくお願いします。お住まいの大阪から、今回はわざわざ東京までいらしたということで。
上田
いえいえ、たまにはこうして遠出しませんと、こもって原稿を書くばかりでは体がなまってしまいますから(笑)。こちらこそ初めてお目にかかりますが、どうぞよろしくお願いいたします。
江口
集英社文庫で人気をいただいている野口さんの「めおと相談屋奮闘記」シリーズからは、最新刊の『風が吹く』がこの1月に刊行されます。同じく話題の、上田さんによる「辻番奮闘記」シリーズからは、第4巻となる『渦中』が2月に刊行予定です。まず野口さんの人情味あふれるシリーズは、江戸の下町に相談屋と将棋会所を開いている信吾が主人公ですね。
野口
はい、世の人に役立つ道はないだろうかと、19歳で料理屋の相続を放棄して相談屋を開いたのです。それだけでは食えないと、隣り合う将棋会所も開業しました。タイトルは当初「よろず相談屋繁盛記」シリーズとして展開しましたが、波乃と結婚しまして、ふたりで相談屋を営むようになり、この「めおと相談屋奮闘記」シリーズにつながっております。新刊の『風が吹く』では、将棋会所に通う天才少女ハツや、信吾のもとで働く小僧・常吉といった若い人たちが、まさに新しい風を吹かせるような作品になっているんです。
上田
野口さんのお姿を拝見して、この「めおと相談屋奮闘記」シリーズのイメージとぴったり合う気がしたんです。とても穏やかな人情物を、しかもこれだけきっちりと書かれる作家の方は、今はあまりいらっしゃらない。それで今回お会いして、「ああ、なるほど」と得心がいったところがありました。
江口
一方、上田さんの「辻番奮闘記」シリーズは三代将軍家光の治世に生きる、平戸藩士・斎弦ノ丞が主人公です。島原の乱鎮圧に伴って江戸では辻斬りや狼藉(ろうぜき)が横行し、辻番に命じられた弦ノ丞が活躍する。ただ幕府の権力抗争に巻き込まれるのみならず、牢人による将軍の御成行列襲撃を阻止する際、その判断をめぐって下級藩士から反発されるなどしたため、国元に戻されています。長崎辻番としてその有能ぶりを発揮しているなかで迎えるのが、この最新刊『渦中』です。
上田
長崎で頑張っている弦ノ丞に、また次から次へと難題が降りかかってきます。平戸で行われていた南蛮貿易が禁じられたために長崎に人が流れてきて争いは増える、しかし辻番の増員は難しい。そこにさらに、タイオワン(台湾)との貿易の利をめぐって勃発した、過去の大きな事件も絡み合っていく。長崎の治安を守るひとりの辻番が、自らをとりまく大きな思惑に対峙(たいじ)していく、そんな話になっています。
プロフィール

野口 卓(のぐち・たく) 1944年徳島県生まれ。立命館大学文学部中退。93年、一人芝居「風の民」で第三回菊池寛ドラマ賞を受賞。2011年、「軍鶏侍」で時代小説デビュー。同作で歴史時代作家クラブ新人賞を受賞。著書に『ご隠居さん』『手蹟指南所「薫風堂」』『一九戯作旅』『からくり写楽―蔦屋重三郎、最後の賭け―』などがある。

上田秀人(うえだ・ひでと) 1959年大阪府生まれ。大阪歯科大学卒業。97年第20回小説CLUB新人賞佳作を受賞しデビュー。以来、歴史知識を巧みに活かした時代小説、歴史小説を中心に執筆。2010年、『孤闘 立花宗茂』で第16回中山義秀文学賞、14年『奥右筆秘帳』シリーズで第3回歴史時代小説作家クラブ賞シリーズ賞を受賞。『勘定吟味役異聞』、『百万石の留守居役』ほか、人気シリーズ多数。

江口 洋 集英社文庫編集部部次長