よみもの・連載

初恋父(と)っちゃ

第三回

川上健一Kenichi Kawakami

 関東地区に住んでいる高校の同級生たちが集まって、春と秋に一泊のゴルフコンペ旅行をしている。毎回十二人前後の参加があり、コンペ名はTHB選手権。THBは、十和田高校・へっぺし・ブラザースの略なのだが、対外的には十和田高校・ホンジナシ・ブラザースといっている。へっぺしという方言の意味が分かる者には、十和田高校・セックスする人・ブラザースということが分かって、メンバー達の品性、人格を疑われる恐れがあるからだ。もちろん悪ふざけのシャレでつけた名前なのだが、高校時代は寝ても覚めてもセックスのことが頭から離れなかったという男ばかりのコンペなので、的外れとはいえない。メンバーたちには納得のコンペ名なのだった。
「水沼さん、お代わりはどうします?」
 エリちゃんの声がして水沼は振り向く。ビールのジョッキが空になりかけている。
「んーと、焼酎のお湯割り。エリちゃん、俺ってこいつらと違って、品位、品格、品性が滲み出ているよね?」
「うん。一見真面目そうだけど、本当はいやらしいって感じの品位、品格、品性に人格」
 小澤と山田が、誰が見てもそう見えると笑い、水沼はまたガックリと肩を落とす。
「んで、夏沢みどりのどごが好ぎだったのせ?」
 と山田はいう。
「どこがって、何もかもだよ。一目惚れだったすけなあ」
「小学校五年生でがよ? イガもまだ、ませだわらしっこ(ガキ)だったなあ」
「どんな女なの? よっぽどきれいだったんだね」
 と小澤が身を乗り出す。
「いや、きれいかといえば、いわゆる美人じゃないんだよ。だけど立ち姿がスッときれいで、都会的な感じで、いい雰囲気の女子だったんだよ」
 水沼の表情が自然に緩む。
「そうそう。頭よかったな。中学時代は学年でずっと一、二番だったよなあ」
 山田が思い出を引き出すようにうなずきながらいう。
「うん、頭よくて、いつも笑みを浮かべていて、誰かとしゃべっている時は笑顔だったんだよ。それがまぶしくてさ。勉強ができるのに控えめで、でしゃばらないところもよかったよなあ。それに足が速かった。学校対抗競技会のリレー選手だったんだ。中学二年生の時に、彼女に初めて声をかけた時のことを鮮明に覚えているよ」
 水沼は奥座敷をぼんやりと眺め、その向こうにある思い出を見つめて話し続ける。

プロフィール

川上健一(かわかみ・けんいち) 1949年青森県生まれ。十和田工業高校卒。77年「跳べ、ジョー! B・Bの魂が見てるぞ」で小説現代新人賞を受賞してデビュー。2002年『翼はいつまでも』で第17回坪田譲治文学賞受賞。『ららのいた夏』『雨鱒の川』『渾身』など。青春小説、スポーツ小説を数多く手がける。

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