よみもの・連載

初恋父(と)っちゃ

第三回

川上健一Kenichi Kawakami

 と水沼は笑って突き放す。長年の付き合いだ。山田と小澤の魂胆はお見通しだ。
「まあそういうことだけどな」
 山田はあっさり白状してから、
「だけどどうせお前は一人では会いに行けないだろうが。だから俺たちがついていってやる。それになんたかた(どうしても)会いたいという訳じゃねがんべ?」
「そうだなあ……。会いたいけど、弁護士に頼むとか新聞広告を出しても、ということはしたくないなあ」
 思い出の中にある初恋には、そんなことまでして会うものじゃないという気がする。夏沢みどりの都合も分からずにどんな手段を使ってでも会うというのは、初恋の思い出を踏みにじってしまうような気がするのだ。
「死ぬまでにもう一回会ってみたいなあとは思うけど、まあ、いいんだ」
「初恋父っちゃよ。本当にお前は昔からグナモナするやづだなあ。会いたいなら弁護士に調べてもらってさっさと会いに行げばいんでねが。我だばチャッチャどやってしまうな。グナモナするのは心臓に悪い」
「あのな、ツラツケナシのイガど違って我だっきゃナイーブで思慮深いんだよ」
「何がナイーブだ。クルシミマスイーブって面っこしてカッコつけてるだけだろうが」
「ハハハ、いまのはヒットだ。お前は本当にたまーに、百年に一回くらいはヒット飛ばすよな」
「まあな、って、それだば最初で最後のヒットってごどでねが? まあいい。グナモナのお前のために、小澤と二人で夏休みを企画してやった。名付けて『初恋父っちゃ・ジグナシ(根性なし)ツアー』だ。カッコいいネーミングだべ?」
「全然。ひとっつも。ナッシング」
 水沼は言下にいい捨てる。
「やっぱりが。まあいい、ツアーのネーミングはまた考える。目的はな、夏沢みどりちゃんに会いに行くけど、会えなくてもいい、会えたらラッキーって軽いノリで行ってみんべしってツアーだ。遅れてきた夏休みの初恋探しドライブ、アンド・ゴルフ合宿、アンド・温泉、アンド・うまいもの、アンド・おまけでおねいちゃん大宴会の旅。どんだど、豪華絢爛の夏休みパックだべ」
「おねいちゃん大宴会ってのは何だ?」
「すすきのにいいクラブがあるんだよ。ぺろっとへったら小澤のバガッコあ行く気満々だ」
「イガどあ、おまけというよりそれがメインでねのが?」
 水沼は苦笑して受話器に勢いよく鼻息を吹きかける。
「ハハハハ、とにかくクレージーキャッツC調大作戦『初恋父っちゃ・ジグナシツアー』だ。賑やかに行ぐべす」
「クレージーキャッツC調大作戦ってのは何だ?」
「クレージーキャッツのC調映画みたいにバガッコやりながら、車で賑やかに走り回る旅だよ。一回やってみでがったんだよ、クレージーキャッツ。クレージーキャッツは五人だすけ、一週間休み取れそうなサックどニコライも誘ってみだけど、サックはシンガポール出張、ニコライはちょうどレディー・カガ殿と旅行するごどになってでダメだった。へだすけ我どイガど小澤の三人クレージーキャッツC調旅行だ」

プロフィール

川上健一(かわかみ・けんいち) 1949年青森県生まれ。十和田工業高校卒。77年「跳べ、ジョー! B・Bの魂が見てるぞ」で小説現代新人賞を受賞してデビュー。2002年『翼はいつまでも』で第17回坪田譲治文学賞受賞。『ららのいた夏』『雨鱒の川』『渾身』など。青春小説、スポーツ小説を数多く手がける。

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