よみもの・連載

初恋父(と)っちゃ

第四回

川上健一Kenichi Kawakami

「十和田湖町の小川に東北町の村山、それに七戸町の白石。そんなもんじゃないかな。三年前の情報だから、もっと死んでるやつがいるかもしれないよ。ガンの手術したとか、脳梗塞で動けないってやつもいたからさ」
「うん。いたよな」
「東北町の村山って誰だっけ? そんなやついたか?」
 水沼は首をひねる。
「小さいやつだよ。おとなしいやつでさ、温厚ないいやつだったよ」
 と小澤は淋しそうに笑う。
「思い出せないな。白石ってやつも思い出せない」
「あいつも目立たないやつだったけど、どこだかの郵便局長やって、飲みすぎて肝臓壊して病気になったって話だ」
 と山田。
「とにかくさ、そいつらのことを思って、人間って死ぬんだなあって溜め息が出たんだよ」
「だけどさ、夏沢みどりちゃんに死ぬまで会えないっていうけど、それって死んだら会えるってことなんだろうか?」
 と小澤。
「何へってらど(いってんだ)このホンツケナシ。死んだら会える訳ないだろう。死ぬまで会えないし、死んでも会えないってことだよ。当だりめだべせ」
 山田は冷笑を浴びせる。。
「だったら永遠に会えないが正確だよ。死ぬまで会えないじゃなくて、永遠に会えない」
 小澤はしたり顔を山田に返していう。
「いいじゃないか死ぬまで会えないでも。人間は生きている間のことしか分からないんだからな。死後のことを分かったようにいっていることがあるけど、信じる信じないは人それぞれだ」
 山田は面倒くさそうに苦笑する。
「まあ、そりゃあそうだけどさ」
 小澤も苦笑し、水沼も付き合うように苦笑しながら、
「そうか。永遠か。そうだよな。初恋は永遠だよな。初恋は唯一無二の永遠の味ってことか」
 といって大きく息を吐く。
「イガ(お前)、このバガッコ。今日からバカンスだど。仕事のことは忘れろって。初恋の憧れの夏沢みどりちゃんに会いに行くっていうのに、仕事絡みで会いに行くのは失礼だろうが」
 と山田。
「失礼も何も、会いに行くったって会えるか会えないか分からんだろうが。入れ込んでいるのはお前たちだろうが」
「水沼さあ。本当に夏沢みどりの住所とか電話番号、分かんないの? 山田がいってたみたいに弁護士に調べてもらわなかったのか?」
 と小澤がいう。

プロフィール

川上健一(かわかみ・けんいち) 1949年青森県生まれ。十和田工業高校卒。77年「跳べ、ジョー! B・Bの魂が見てるぞ」で小説現代新人賞を受賞してデビュー。2002年『翼はいつまでも』で第17回坪田譲治文学賞受賞。『ららのいた夏』『雨鱒の川』『渾身』など。青春小説、スポーツ小説を数多く手がける。

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