連載
初恋父(と)っちゃ
第六回 川上健一 Kenichi Kawakami

 水沼がティーショットを打ったとたん、山田と小澤は大笑いした。十四番のティーグラウンド。打ち出されたボールは真っ直ぐ右に逸(そ)れ、林の中に一直線に飛び込んでいく。完璧なOB。
「クソッ。また力んじまったッ」
 水沼がドライバーを握りしめて悪態をつくが後の祭りだ。前のホールのティーショットも右に打ち出してOBだった。ティーグラウンドには水沼と山田と小澤の三人がいるだけでキャディーはいない。乗用カートを使って三人だけのセルフプレーラウンドだ。
「何やってんだ、この初恋父っちゃ。前のホールから二連続でティーショットがOBじゃないか。しかも前のホールの画像を再生しているおに(みたいに)まったく同じに右OBだ。これでもう俺が勝ったも同然だな」
 山田はご満悦だ。
 小澤がそれみたことかと勢いづく。
「本当に水沼は懲りないやつだよなあ。だからいつもいってるだろう。もっと気楽にやれって。毎回入れ込みすぎだ。昔運動部だった人間の性(さが)だな。スポーツとなると何でも最高のパフォーマンスじゃなきゃ満足しない。ろくすっぽ練習なんかしていないくせに目一杯やろうとするから、いつも力んじゃってミスショットしちゃってるじゃないか。ちっとも学習しないよなあ」
「お前は本当にたまーにいいこというなあ。へでも水沼はホンジナシだすけ仕方ね。好きだおにやらへでおげ」
 山田が楽しげに笑う。
 三人はハーフナッソーをやっていて前のホールまで水沼の一人負けだった。小澤のいう通りで、力んでミスショットの連続なのだから当然の結果だった。大掛かりな談合事件の中心人物山田は、捜査当局が探し回っているというニュースもどこ吹く風で、水沼と小澤のミスショットに声を上げて笑い、それどころか自分のミスショットにも腹の底から楽しそうに笑い転げていた。あれこれの懸案事項はさておいて、目の前のことを楽しむという楽天的な性格は子供の頃から変わっていない。まずは笑う。それからちょっと考えてものごとをいう。いつどんな時でも慌てることがない。その目は時に哲学者のようであり、時に子供のようだが、同級生と会っている時はいつも子供のような目をして楽しそうだ。童貞の頃のバガッコと会うと童貞の頃のバガッコに戻ってしまう、というのが山田の持論だった。
 水沼が苦笑しながら、
「ホンジナシはお前だ、山田。公正取引委員会が行方を追っているというのに、よく平気な顔でゴルフができるよなあ。しかもいつもより調子がいいってんだからホンジナシでツラツケナシだ」
 という。
「あのな、俺は本気出せばこんなもんだ。東京さ帰ったらしばらくゴルフはできねすけ、なんもかも気合いっこ入ってんだよ。お前らに勝てば気分よく公正取引委員会に出頭できるってもんだ」



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〈プロフィール〉
川上健一(かわかみ・けんいち)
1949年青森県生まれ。十和田工業高校卒。77年「跳べ、ジョー! B・Bの魂が見てるぞ」で小説現代新人賞を受賞してデビュー。2002年『翼はいつまでも』で第17回坪田譲治文学賞受賞。『ららのいた夏』『雨鱒の川』『渾身』など。青春小説、スポーツ小説を数多く手がける。
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