よみもの・連載

初恋父(と)っちゃ

第十二回

川上健一Kenichi Kawakami

「何で分かったんだ?」
「分かるよ。お前はクラブ大好き、おねいさま大好きだからな。どこへ行っても大人しく一人で夜をすごしている訳はないから、楽しく遊んで知り合いになったというのはそれしか考えられないよ」
「お前、本当にあなどれないな。いやびっくりだ。まあいいや。とにかくおねいさま方の人脈はすごいぞ。俺が足元にも及ばないくらいすごい。だからかつての雪印関係者もいっぱい知ってるはずだ。ここの夕張にも昔親しくなったおねいさまがママやってるでかいクラブがある。ネットで調べたら店はまだあった。ママも同じだった。載せてる写真は昔の若い頃のママだから、ありゃあ完璧にフェイク写真だな。今では元が十ぐらいもつくおねいさまになってるはずだ」
「ということはしばらく振りってことね」
「そうだな。十年以上は経つな。だから水沼、ドモハよ、初恋父っちゃよ、まだ諦めるな。望みは大いにある。勝負はばんげ(夜)になってからだじゃ」
 山田はまた十和田語になった。目元が弛(ゆる)んで笑い皺が穿(うが)たれた。それからフロントガラス越しにどこかを見て、ニヤニヤと思い出し笑いをした。水沼には苦笑しているように見えた。
「まあ、行ってみれば分がるべ」
 と山田はにやけ顔のままいった。それから水沼を見た。「んだすけ諦めるのはまんだ早いど。旅っこは始まったバリだ(ばかりだ)。初恋の夏沢みどりさ会いたいって気持ちはそったらに簡単に諦められるもんでねがべせ(ないだろう)。とことんやってみねばスッキリしねべ」
「そりゃあ会いたいことは会いたいけど、俺の方はもう打つ手無しでお手上げだから諦めようと思ったんだ。そういうことならお前に任せるよ」
「おお、まがへろお」
「ところでさ、今日の宿どうする?」と小澤がいった。「今日はベッドか布団でぐっすり眠りたいよ。昨夜ろくに眠っていないから今夜は眠り薬抜きでもグッスリ眠れそうだからさ、手足伸ばして眠りたいんだ」
「モーテル探そう」と水沼はいった。「ホテルや旅館だと警察だか特捜だかが手ぐすねひいて網張っているかもしれん。三人で夏沢みどりを探すって約束したからな。山田を逮捕させる訳にはいかない」
「この辺りさモーテルだのラブホはねえど思ったな。リゾート施設の中さSってへる(Sっていう)でっけえホテルっこあるすけそごさすんべし(そこにしよう)。このホテルだばワが担当して下請けさやらへだすけ(やらせたから)隅々までおべでら(知ってる)。関係者しか知らね抜げ穴っこノロっとあるすけ(いっぱいあるから)ワだばどっからでも通り抜け自由だ。部屋は二つ予約する。水沼と小澤で予約して、ワがロビー通らねで抜け穴がら入ってどっちゃがの部屋さ潜り込む。特捜か警察がワば探しているとすればワの名前で探してるごったすけ、まんず、踏み込まれるごどだば心配しなくていいごった。部屋はみんなツインだすけちゃんと一人ずつ寝れる」
「さすがは策士だな」と小澤が感心した。「悪知恵が働くよね。お前そういうことは昔から頭働かせるよなあ。会社もお前のそういう才能を買って役員にしたんだろうなあ。真っ正直な俺は絶対に会社では偉くなれないタイプだよなあ」
「何へってらど。イガの方が絶対偉くなれる。んだってあの手強(てごわ)い横浜の関内(かんない)のおねいさまばチョロッと騙(だま)して愛人にしたでねが。ワだばそったら才能ね(才能無い)」
「だから愛人じゃないってば。あれは俺の方が騙されたの。何しろ二百万も持ってかれたんだから。やらずぶったくりもいいとこだよ。まあでもさ、まあ、別にさ」
 小澤は言葉を濁しながらへへへと笑った。

プロフィール

川上健一(かわかみ・けんいち) 1949年青森県生まれ。十和田工業高校卒。77年「跳べ、ジョー! B・Bの魂が見てるぞ」で小説現代新人賞を受賞してデビュー。2002年『翼はいつまでも』で第17回坪田譲治文学賞受賞。『ららのいた夏』『雨鱒の川』『渾身』など。青春小説、スポーツ小説を数多く手がける。

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