対談 桜木紫乃氏×東山彰良氏
- 桜木
- 私は結構やさしかったんですけれどね。東山にいさんは、「僕はいいのないな」。一言でしたものね。あれで完全に私と朱川さんを威嚇した。
- 東山
- そんなことはないです。僕はそれまでに文学賞の選考委員というのをやったことがなくて慣れてなかったんですよ。さらに、桜木さんにも朱川さんにも初めてお会いして、とても緊張していたというのもあったと思います。
- 桜木
- 一番緊張していなかったと思う。
- 東山
- いやいや、僕は一番緊張していましたよ。
- 桜木
- そうかな。
- 東山
- 本当です! ……何て言うか、気合が入り過ぎていたんでしょうね。短編小説というものには、その作家のエッセンスのようなものが詰まっているはずだと。
長編小説も、どうしても作家の価値観というか、人生観がにじみ出てくるはずなんですけれど。長編小説には、恐らく物語の中に作家の価値観が薄められて入っていくものなんじゃないかと思うんですね。でも、それが短編小説になると、もっと作家の色というか、個性が出てくるんです。そこに注目して選考したつもりなんですけれども、そうすると、どうしても物足りないというか……。僕、あのときと同じようなこと言ってますね。 - 桜木
- 本当です。ぶれてないなと、今聞いていて思いました。
- 東山
- いやいや、成長してないのかもしれない。桜木さんが今おっしゃっていたように、僕は割と忌憚(きたん)なく言っちゃっていたみたいなんです。
- 桜木
- 忌憚なかったですよ。
- 東山
- 今振り返ると、もうちょっと言い方に気を使えばよかったかなと反省しています。プロの作品を選評していたわけではなく、これからプロになろうという若い人たちの作品を選評させてもらっていたのに……。そこは桜木さんはさすがに上手でした。今でも覚えている短編小説横断歩道論というのがあるんですよ。
- 桜木
- 長編小説だと、横断歩道を渡り切る間にダンプがどーんと来たり、いきなり電信柱が倒れたり、救急車が通りすぎてもいいんですけれども、短編小説の場合、何事もなく渡り切らなきゃいけない、同じ歩幅で。
- 東山
- そうです。僕の思っていたことを恐らく違う言葉で表現されていたなと思ったんですね。選考会で作品を読んでいて違和感があったんです。横断歩道論で言えば、きちんと信号が青の間に自分のペースを守って渡り切っている短編があまりなくて、出だしが遅くて青がピカピカになった後に走り抜ける、そういうバランスの悪さが結構目立ったんですよ。なので僕は、もう今年は駄目だみたいなことを言っちゃうんですけど。
- 桜木
- 言ってた。
- 東山
- でも、桜木さんは、若い子たちにも伝わるような言葉遣いで上手に選評されていたなというのが僕の桜木さんに対する印象です。さすがです。
- 桜木
- こうやって私のハードルを上げる人がいます。
- 東山
- そんなことはないです。桜木さんには、僕は最初の選考会で初めてお会いしたので、何もほとんど知らない状態でお会いしたんですけど、無類のストリップ好……。
- 桜木
- いきなり行きますか。
- プロフィール
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桜木紫乃(さくらぎ・しの) 1965年北海道生まれ。2002年「雪虫」で第82回オール讀物新人賞を受賞。07年同作を収録した単行本『氷平線』でデビュー。13年『ラブレス』で第19回島清恋愛文学賞、同年『ホテルローヤル』で第149回直木賞、20年『家族じまい』で第15回中央公論文芸賞を受賞。他の著書に、『硝子の葦』『起終点(ターミナル)』『裸の華』『緋の河』など。近刊に『俺と師匠とブルーボーイとストリッパー』がある。
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東山彰良(ひがしやま・あきら) 1968年、台湾台北市生れ。9歳の時に家族で福岡県に移住。2003年、「このミステリーがすごい!」大賞銀賞・読者賞受賞の長編を改題した『逃亡作法 TURD ON THE RUN』で、作家としてデビュー。09年『路傍』で大藪春彦賞を、15年『流』で直木賞を、16年『罪の終わり』で中央公論文芸賞を受賞。17年から18年にかけて『僕が殺した人と僕を殺した人』で、織田作之助賞、読売文学賞、渡辺淳一文学賞を受賞する。『イッツ・オンリー・ロックンロール』『女の子のことばかり考えていたら、1年が経っていた。』『夜汐』『越境』『小さな場所』『どの口が愛を語るんだ』『DEVIL’S DOOR』など著書多数。訳書に『ブラック・デトロイト』(ドナルド・ゴインズ著)がある。