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対談 桜木紫乃氏×東山彰良氏

対談 桜木紫乃氏×東山彰良氏

東山
それはもう。今回福岡に桜木さんをお招きした経緯にもつながってくるので、先に言っちゃいますけど、桜木さんは本当に無類のストリップ好きで。僕は月に一回、朝日新聞の西部版でエッセイを書かせてもらっているんですね。このエッセイの主眼としては、どこか旅をして、それを書くこと。ただ、皆さん御存知のように、コロナであまり出歩けないじゃないですか。だから、近場でネタを拾っていったんです。そうするうちにどんどん自転車操業状態になっておりまして……。
先日掲載していただいた小倉のストリップ劇場の話もそのひとつです。朝日新聞の担当者さんが「小倉の『A級小倉劇場』という九州で最後のストリップ劇場が、閉館するかもしれないですよ」とおっしゃるので、見に行くことに即決ですよ。ただ、ストリップを見に行ってどんなエッセイが自分に書けるのか全然分からなかったんですね。ストリップに関してそんなに研究をしてきたわけでもないですし。
桜木
いやいや。今日、客席に奥さんがいるからってそんな。
東山
いえいえ。そんなにいっぱい見てきたわけでもないので、エッセイにも書いたんですけど、桜木ねえさんに聞いてみようと。ストリップはどう見たらいいんだ……というところで、連絡を久しぶりにさせてもらったんですよ。普通作家さんって、メールを出してもなかなか返ってこない人が多いんですけど、五秒ぐらいで返ってきましたよ。
桜木
この話題だからね。これはちゃんと言っておかなきゃいかんと思って、長いメールを返したんです。
東山
本当に感動するぐらい。それだけでエッセイに一本なるじゃないかというぐらいの長文のメールをいただきまして、それを切り口にストリップを見に行って記事になったエッセイを書いたんですよ。
桜木
(客席に向かって)最初からこんな話題で嫌じゃないですか。下ネタですよ。大丈夫ですか。日が高いよ。
客席
(どっと笑い声が起きる)
東山
ストリッパーというのは裸で小説を書く作家だと桜木さん言い切っちゃっていますから、ストリップを語ることイコール文学を語ることですものね。
桜木
うまいね。
東山
もちろんです。
桜木
特別ストリップを語ることが文学だとは思って……いるんです。
客席
(再び笑い声が響く)
桜木
実際御覧になった方もいるかは分からないですけれども、ストリップは、二十分という限られた時間の中で、出会いから別れまでを表現するんですね。誰が来てるか分からない舞台の上で、短い時間で全部を伝え切って、去る。お客さんがアクビしたら失敗という点で、短編小説だなと思っています。
東山
桜木さんのメール、すごい長文で。朝日新聞のエッセイでは全部紹介しきれなかったんですけれども、踊り子さんまでお薦めしてくださったんですよ。
桜木
レイ(友坂麗さん)ちゃんは、私が浅草のロック座に行ったときに、デビュー二年目の姿を見て、衝撃を受けたんです。彼女のデビューの頃からずっと追っていたんですが、久々に見たステージで、「こうやって成長するんだ、踊り子さんというのは。現場で修業を積んで、体を作って……。お客さんの顔一つ一つが見えている状態で、どうやって見せれば、誰がどんなふうに喜ぶか。彼女にはそれが分かっているんだ」って。どうせ見るんだったらその子を見たほうがいいよという話なんですけどね。
プロフィール

桜木紫乃(さくらぎ・しの) 1965年北海道生まれ。2002年「雪虫」で第82回オール讀物新人賞を受賞。07年同作を収録した単行本『氷平線』でデビュー。13年『ラブレス』で第19回島清恋愛文学賞、同年『ホテルローヤル』で第149回直木賞、20年『家族じまい』で第15回中央公論文芸賞を受賞。他の著書に、『硝子の葦』『起終点(ターミナル)』『裸の華』『緋の河』など。近刊に『俺と師匠とブルーボーイとストリッパー』がある。

東山彰良(ひがしやま・あきら) 1968年、台湾台北市生れ。9歳の時に家族で福岡県に移住。2003年、「このミステリーがすごい!」大賞銀賞・読者賞受賞の長編を改題した『逃亡作法 TURD ON THE RUN』で、作家としてデビュー。09年『路傍』で大藪春彦賞を、15年『流』で直木賞を、16年『罪の終わり』で中央公論文芸賞を受賞。17年から18年にかけて『僕が殺した人と僕を殺した人』で、織田作之助賞、読売文学賞、渡辺淳一文学賞を受賞する。『イッツ・オンリー・ロックンロール』『女の子のことばかり考えていたら、1年が経っていた。』『夜汐』『越境』『小さな場所』『どの口が愛を語るんだ』『DEVIL’S DOOR』など著書多数。訳書に『ブラック・デトロイト』(ドナルド・ゴインズ著)がある。