対談 桜木紫乃氏×東山彰良氏
- 東山
- 僕は師匠が好きです。師匠とブルーボーイとストリッパーだったら、師匠が一番好き。マジシャンなんだけど、全然成功しないんですよ。
- 桜木
- そうなの。すべりマジック。
- 東山
- すべりマジック。
- 桜木
- 右から左にトランプ落とすときに全部ざーっと落ちていく。それを拾っている間にここからハトが出てくる。
- 東山
- ハトがぼてっと落ちたりする。
- 桜木
- 落ちたりするね。
- 東山
- キャバレーのお姉ちゃんたちはそれも心得たもので、「今日も絶好調!」とか言ったりするんですよね。
- 桜木
- 私はキャバレーというところが大好きで。作品内では、キャバレーパラダイスと書いているのは、釧路にある銀の目というキャバレーのことでね。伏せて書いていたのに、本が出たら、銀の目の社長さんから「これはうちですね」と手紙を頂きました。そのとおりです。
- 東山
- ネットで見ましたけど、『俺と師匠とブルーボーイとストリッパー』というタイトルは大竹まことさんが関係されてるんですよね。
- 桜木
- 大竹さんが十八、九のときに営業で釧路にいらしてね。ちょうどお正月を挟む期間で、東京に帰るわけにもいかないから、海を見に行ったんですって。そのときのキャバレーの営業のメンバーが俺と師匠とブルーボーイとストリッパーだったんだよ――。
「大竹まこと ゴールデンラジオ!」でそれを聴いた瞬間に、これはタイトルだと。タイトルと登場人物が全部一遍に入ってきたら、こんなおいしい話はないわけで、しかも舞台は釧路の冬。これは私しか書かないだろうなと。物語っていつどこで出会うか分からない。アンテナ張ってないと見逃しちゃう。 - 東山
- 一回逃がしちゃうと、二度と訪れないことが多いですね。
- 桜木
- 人とすれ違うよりも確率は低いですね。一年に一回ああいう出会いがあればその後も書いていけそうな気がします。
- 東山
- 本当そうだと思います。
- 桜木
- テーマのこととか、主人公を好きになることとか……やっぱりこういう話は彰良にいさんとは合うんじゃないかと思ってたんだ。
- 東山
- 僕も思っていました。続きはまたゆっくりと酒を呑(の)みながら話しましょう。
- 桜木
- そうだね。本日はありがとうございました。
- 東山
- こちらこそ、ありがとうございました。
(2021年4月18日 ブックスキューブリックにて)
撮影/川上信也
- プロフィール
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桜木紫乃(さくらぎ・しの) 1965年北海道生まれ。2002年「雪虫」で第82回オール讀物新人賞を受賞。07年同作を収録した単行本『氷平線』でデビュー。13年『ラブレス』で第19回島清恋愛文学賞、同年『ホテルローヤル』で第149回直木賞、20年『家族じまい』で第15回中央公論文芸賞を受賞。他の著書に、『硝子の葦』『起終点(ターミナル)』『裸の華』『緋の河』など。近刊に『俺と師匠とブルーボーイとストリッパー』がある。
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東山彰良(ひがしやま・あきら) 1968年、台湾台北市生れ。9歳の時に家族で福岡県に移住。2003年、「このミステリーがすごい!」大賞銀賞・読者賞受賞の長編を改題した『逃亡作法 TURD ON THE RUN』で、作家としてデビュー。09年『路傍』で大藪春彦賞を、15年『流』で直木賞を、16年『罪の終わり』で中央公論文芸賞を受賞。17年から18年にかけて『僕が殺した人と僕を殺した人』で、織田作之助賞、読売文学賞、渡辺淳一文学賞を受賞する。『イッツ・オンリー・ロックンロール』『女の子のことばかり考えていたら、1年が経っていた。』『夜汐』『越境』『小さな場所』『どの口が愛を語るんだ』『DEVIL’S DOOR』など著書多数。訳書に『ブラック・デトロイト』(ドナルド・ゴインズ著)がある。