対談 桜木紫乃氏×東山彰良氏
- 桜木
- 今の話聞いていて思ったんだけど、一冊であっても、一編であっても、そのさじ加減ってもしかしたら変わらないのかもしれない。作品である限りは。
- 東山
- ああ、なるほど。
- 桜木
- 三十枚の短編も千枚の長編もカニかまの分量って変わらないのかもしれない。
- 東山
- それだと、やっぱり料理に近いものがあるんですかね。
- 桜木
- ある。必ず私はある。
- 東山
- そうですよ。見たら分かりますものね。
- 桜木
- ばれるらしいんだよね。作家で食べられなくなったらまた新人賞に応募しようと思っていると言ったことがあるんですが、絶対バレますからと止められた。そういうものかな。
- 東山
- 桜木さんの味だからだ。
- 桜木
- 「絶対ばれます」がないと仕事にもならないんだなと思って。
- 東山
- ちょっと話が文学に迫ってきていますね。
- 桜木
- ちょっと迫ってきたよ(笑)。私は、北海道の女をよく小説で書いているんですが。ストリッパーしかり、強くひとりで生きていく北海道の女、とか。いつも書いているうちにどうしてもそういうキャラクターができ上がってしまうんだけれども、いやらしい習い性になっていて。
ところで、噂(うわさ)に聞いたところによると、九州の女の人というのは男性に尽くすのが当たり前として育っているって本当ですか。旦那さんに靴下をはかせるのが至福って噂も聞いたことあるんです。 - 会場
- (女性は特に大きく首を横に振って否定している)
- 桜木
- みんな首振っている(笑)。みんな嬉々(きき)として男性に尽くすって言われているんですよ。
- 東山
- そうですか。全国的にはそんなふうに……。
- 桜木
- うん。北海道の私は九州の女の人についてそう聞いている。どうなの? 本当のところ。
- 東山
- 僕は靴下とかはかせてもらったことないですが。
- 桜木
- 奥さんに靴下はかせているの?
- 東山
- いやいや、それはしないけど、肩はもんでいますよ。僕がもんでいるんですよ。もまれているんじゃなくて。
- 桜木
- 新しい九州人。銀座のママにも言われたことがある。銀座に来て、北海道の子はすぐナンバーワンになるんだって。だけど、本当に自分でお店を持つのは九州の子で。
- 東山
- 尽くすから?
- 桜木
- いや、堅実なんじゃないですか。
- 東山
- それ、例えばストリッパーの踊り方を見て見破ったりできます? この子は九州だみたいな。
- 桜木
- そこまでは分からないけど、北海道の子は時々分かるときがある。変なサービス精神で、なんでもあげちゃう。俗に言うツンデレがないの。本当に楽しんで、わっと足開くから捕まっちゃったりしてね。
- 東山
- なるほど。
- 桜木
- たまに同じサービス精神を自分にも指摘されて、ああ、そうかなと思ったりして。
- プロフィール
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桜木紫乃(さくらぎ・しの) 1965年北海道生まれ。2002年「雪虫」で第82回オール讀物新人賞を受賞。07年同作を収録した単行本『氷平線』でデビュー。13年『ラブレス』で第19回島清恋愛文学賞、同年『ホテルローヤル』で第149回直木賞、20年『家族じまい』で第15回中央公論文芸賞を受賞。他の著書に、『硝子の葦』『起終点(ターミナル)』『裸の華』『緋の河』など。近刊に『俺と師匠とブルーボーイとストリッパー』がある。
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東山彰良(ひがしやま・あきら) 1968年、台湾台北市生れ。9歳の時に家族で福岡県に移住。2003年、「このミステリーがすごい!」大賞銀賞・読者賞受賞の長編を改題した『逃亡作法 TURD ON THE RUN』で、作家としてデビュー。09年『路傍』で大藪春彦賞を、15年『流』で直木賞を、16年『罪の終わり』で中央公論文芸賞を受賞。17年から18年にかけて『僕が殺した人と僕を殺した人』で、織田作之助賞、読売文学賞、渡辺淳一文学賞を受賞する。『イッツ・オンリー・ロックンロール』『女の子のことばかり考えていたら、1年が経っていた。』『夜汐』『越境』『小さな場所』『どの口が愛を語るんだ』『DEVIL’S DOOR』など著書多数。訳書に『ブラック・デトロイト』(ドナルド・ゴインズ著)がある。