表紙からは想像がつかない「怖さ」に満ちた話である。

26歳、彼氏なし。OLりさ子の趣味は舞台鑑賞で、若手イケメン俳優の翔太君を追いかける日々。
2.5次元舞台に通い詰め、高額プレゼントを贈る。
お金も時間もつぎ込み、最初は「がんばってる姿を観られるだけで幸せ」。
時おりイベントで、舞台と客席の距離よりほんの少し近づいては、ときめきをかみしめる。
なんとも健気だ。

本来ならば、そんな女性の可愛い可愛い「夢見る恋物語」で進んでいくようなテーマなのに、実際は〈愛憎劇〉だった。

応援している俳優に“匂わせ彼女”の存在が出てきたら……？

何かに夢中になることを、時に人は「ハマる」というが、徐々に、りさ子のハマり具合が尋常じゃないことに、読者は気づく。
まさに沼の底にいた。
その瞬間、不気味な恐怖を感じるのだ。
結末がどうなるのか、気持ち悪さから逃れたい一心で、必死に読み進めた。

他人のハマり具合を冷静に見ると、それが異常だと、判断できるだろう。
でも、自分の異常さは、どの段階で気づけるのだろうか。

人間はきっと、多かれ少なかれ、夢中になることがある。
今回は2.5次元俳優が対象だった。

では、私は？
そして、あなたは？

実は、沼の底で幸せそうに笑いながら、
他者に不気味な恐怖を与えているかもしれない。