今回の優秀作は青春時代小説、吉森大祐『青二才で候』に!
- 江口
- それでは、第8回「いきなり文庫! グランプリ」の座談会を始めます。今回は、吉森大祐さん『青二才で候』を優秀作に選ばせていただきました。藤堂家の江戸藩邸に仕えることとなった澤村甚九郎という青年を主人公にした、ザ・青春時代小説です。
- 吉田
- 病弱な兄に代わって、出仕するんですよね。実家は伊賀十五家の一つとはいえ、貧しい下級武士。江戸での立身出世を胸に秘めて意気揚々とやって来た甚九郎だったのに、命じられたお役目は、藤堂家のお殿様の妾腹の娘である日奈姫のお守り役だった、という。甚九郎がそのお守り役としての日々を通じて、人間的に成長していく姿が描かれています。私はすごく面白く読みました。
- 浜本
- 帯に「すべての、働くサムライたちへ!」とありますが、この“サムライ”は、現代を生きる社会人にも通じますよね。
- 吉田
- あぁ、わかります。甚九郎、最初はなんでお守り役なんかに、とちょっと腐るんですよね。でも、日奈とのかかわりを通じて、少しずつ変わっていく。
- 江口
- 姫のお守りも大事なお役目なんだということに気づいていくんですよね。
- 浜本
- どんな仕事であっても大事だ、と。
- 江口
- 現代のサラリーマンへのエール的な側面があります。
- 浜本
- 僕も面白くは読んだんですが、甚九郎の師匠的なポジションの小川吉右衛門っているじゃないですか。彼の描き方がちょっと……。
- 吉田
- 甚九郎の故郷の道場では師範代を務めていたくらいの腕利きだったのに、訳あって三年前に国元を出奔し、江戸で浪人暮らしをしている、という設定です。内職で傘張り仕事をしている。