- 『青二才で候』 吉森大祐 中公文庫
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人生、土砂降りが続くわけじゃない。そのうち、晴れることもあるさ――大藩である藤堂家に仕える澤村甚九郎は、病弱な兄に代わり江戸藩邸出仕を命じられた。伊賀十五家のひとつとはいえ、所詮は貧しい下級武士。旧態依然とした組織の中で汲々と生きる人生にうんざりしていた。若い彼は、江戸で一発逆転、立身出世を目論むが、夢見ていた甘い思惑は外れ、じゃじゃ馬で鳴らす日奈姫の守役にされてしまう。困惑する甚九郎だったが……。現代のサラリーマンへのエールが心に響く、傑作青春時代小説。
今回の優秀作は青春時代小説、吉森大祐『青二才で候』に!
- 浜本
- なんかこう、煮えきらないキャラクターに感じたんですよ。傘張りなら傘張りで、筋も良さそうなんだし、仕事を回してもらっている傘張り職人の娘からも好かれているんだから、もういいじゃん、そっちの道を極めれば、と思うんだけど、仕官の話があると、そっちにもふらふらっと……。この小川のキャラのことも含めて、全体的にちょっと盛り込みすぎている感じがするんですよね。
- 吉田
- 私はそこはあまり気にならなかった。青臭い理想論を語る甚九郎を、小川が諭すじゃないですか。「苦境の人は土砂降りの中にいる」と。この言葉、私はぐっと来ました。そして、そういう人には(そばにいる人が)「せいぜい、傘をさすぐらいしかできぬわ」と。この言葉は、あとあと小川が作った傘と絡んで、物語の中でも効いてくる。
- 浜本
- そうそう、いい言葉が沢山出てくる。
- 吉田
- 私は他にも、日奈に華道を教えている津田美津という女性の言葉も良かったな。「(自分は)残念ながら、この外見でございますし、ご存じの通り、人に愛想を売れるような性分ではございません。ですが、それがなんですか。生きているのなら立派なものです。負けてられっか!」この、負けてられっか! という啖呵(たんか)に痺(しび)れました(笑)。
- 浜本
- あそこもいいですよね。ただ、それも含めて、いいことを言うキャラが多すぎる気がするんですよ。
- 江口
- あぁ、わかります。
- 浜本
- 心に沁(し)みる人生訓が多いのはいいんですが、いざ自分も頑張ろう、となった時、どの人物を参考にしたらいいのか、若干焦点がぼやけてしまうというか。
- 吉田
- なるほど。
- 江口
- 私も吉田さんと同じで、めちゃくちゃ面白かったです。ただ、浜本さんが言う「盛り込みすぎ」というのも感じました。剣術の試合とか、わざわざ出してくる必要はあるのかな、という。私は、この『青二才で候』を読みながら、藤沢周平さんの『蝉しぐれ』を思い出しました。主人公に仲間がいて、剣術の試合があって、身分違いの恋があって、と。そういう要素の配置に、藤沢周平メソッドみたいなものを感じました。『蝉しぐれ』を彷彿(ほうふつ)とさせるというだけで、私にとってはとてもうれしい作品です。
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