今回の優秀作は青春時代小説、吉森大祐『青二才で候』に!
- 江口
- 大工という力仕事、男社会のなかでのお峰の苦労とかは、あまり出て来ない。重いものを持ち上げたりするとか、そういった辺りの身体的な感覚というのは、お仕事小説としては欠かせないものだと思うんですが、その辺りがちょっと弱いのかな、とは私も思いました。でも、物語はとても面白かったです。
- 浜本
- そうなんですよ。大工という身体を使う仕事をしているのに、なんというか、“手を動かしている”感じが弱いんですよね。
- 吉田
- 私は女性なので、ヒロインものにはつい肩入れして読んでしまうからかもしれませんが、その辺のことはそんなに気にならなかった。それよりも、先ほど『蝉しぐれ』を読んで、武家社会や武士を描いた時代小説に必要なものは清潔感だと気がついた、と話しましたが、この『おんな大工お峰』『大江戸かあるて 鍼のち晴れ』を読んで、町人、庶民を描く時代小説の鍵は、人情じゃないか、と思ったんですよね。
- 浜本
- そうか、『おんな大工お峰』はお仕事小説として読むとちょっと違和感があるけれど、人情話として読むと、違和感がない。
- 江口
- そもそも、お峰に意地悪をしたりとか、そういう悪い人が出て来ない。たとえば、大工の五助にしても、大工としては腕利きだし、お峰の大先輩なのに、お峰を排除したりとか、そういうことはしません。お仕事小説としては物足りなさもあるのだけれど、人情物として読むと腑(ふ)に落ちます。しみじみとさせられる文章も良かったですね。
- 吉田
- 浜本さんが言ったように、門作を主人公にしたら、お仕事小説になったと思うんですよ。でも、そうではなくて、主人公をお峰に、「おんな大工」にしたところがこれから本作の肝になっていくんだと思います。
- 江口
- 門作のキャラ、私は好きでした。
- 浜本
- 彼の成長は、ちゃんと描かれていますよね。
- 吉田
- その成長に、辛(つら)い恋が絡んでいる、というのがまたいいんですよ。あんなに内向的で、大工仕事には目もくれず、漢詩に没頭していた門作が、ラストで、「漢詩のために普請の修業をいたします」と言うまでになる。このシリーズ、これからどんなふうに話が広がっていくのか、読んでみたいです。
- 浜本
- そうですね。門作のこれからも気になります。