今回の優秀作は青春時代小説、吉森大祐『青二才で候』に!
- 吉田
- この駿が見習いにつく西川先生のキャラもいいんですよね。心底煮ても焼いても食えないたぬきおやじなのか、綺麗ごとや理想だけではままならない世の中を渡っていくための知恵を、駿に授けるために敢(あ)えてたぬきおやじのように振る舞っているのか、底が見えない。
- 浜本
- そんな西川先生に、正面からぶつかっていく、というあたりもいいですよね。青春小説のツボを押さえている。あと、学問所で学生たちがお互いに鍼を打ち合うというのは面白かったんですが、素人どうしで大丈夫なんだろうか、と思ってしまいました。あれ、現代の鍼の学校でもそうなんですかね。
- 吉田
- そうみたいですよ。以前通っていた鍼の先生が言ってました。
- 浜本
- 万が一、鍼が変なところに入っちゃったらと思うと、ちょっと怖い。というか、私はそもそも尖(とが)ったものが苦手なので、鍼は……。でも、小説自体は面白かったです。最初のほうで、学問所にいる咲良という女子と駿の恋愛も絡んでくるのかなと匂わせておいて、でも、そっちのほうには進まない、というのも意外性があって良かった。
- 吉田
- それとは別に、ちょっと込み入った駿の恋愛が出て来て、そっちの行方も気になる。
- 江口
- 次にいきます。泉ゆたかさん『おんな大工お峰 お江戸普請繁盛記』です。こちらはお仕事小説での比較として取り上げました。浜本さん、どうでしたか?
- 浜本
- 面白くは読んだのですが、やや現実味は薄く感じました。お仕事小説ではありますが、そもそも江戸時代の大工というのが具体的にどんなふうだったのかとか、細部がわからないんですよね。なんとなく漠然としている。そこに加えて、「おんな大工」とすることで、余計に曖昧な感じを持ってしまいました。個人的には、お峰の弟・門作を主人公にしたほうが、わかりやすく一本筋の通った青春小説になったんじゃないか、と思いました。
- 江口
- 吉田さんはどうですか?
- 吉田
- 私は、浜本さんが指摘したことはそんなに気にならなくて、「おんな大工」という切り口が面白いと思いました。具体的な大工仕事や「おんな大工」の曖昧さは、今、浜本さんに指摘されて、! となりました。ただ、多分、これはシリーズ第一作になると思うので、大工仕事のこととかは、おいおい描かれていくのかも。
- 浜本
- そうですね、シリーズものになりそうですよね。とはいえ、もう少し、お峰が大工として成長していく様が描かれてもいいように思います。