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『琉球建国記』刊行記念 特別対談 今野敏 × 矢野隆
―「琉球」を書く―

 
構成/宮田文久 撮影/織田桂子

『琉球建国記』刊行記念 特別対談 今野敏 × 矢野隆 ―「琉球」を書く―


江口
本日は矢野隆さんの書き下ろし長編『琉球建国記』の刊行を記念して、矢野さんが以前より私淑していらっしゃる、今野敏さんのお仕事場にお邪魔しています。おふたりが会われるのは、2019年9月の「会津まつり」以来とのことですね。
今野
もう3年ほど前になりますか。
矢野
ご無沙汰をしておりました。私は会津まつりには3、4回ほどですが、毎年のように今野さんの姿を見にお邪魔していました。
江口
旧会津藩のお歴々に扮した方々が街中を練り歩く「会津藩公行列」が名物で、今野さんは家老・西郷頼母(さいごうたのも)役で登場されてきました。振り返れば、会津出身の武術家・武田惣角(たけだそうかく)が主人公の『惣角流浪』を1997年に発表されてからの、土地とのご縁ですね。
今野
ありがたいことですね。朝早く起きて、一日中馬に乗っているのは本当に大変なんだけれど(笑)。
矢野
そんな馬上の姿を拝見しながら、沿道から私たちが「今野さーん!」と声援をおくるという(笑)。初めてお会いしたのは、福岡でしたね。美味(おい)しい料理とお酒をご一緒して……。
今野
そうですね。もう5、6年前になりますかね。
矢野
それから、このお仕事場の近くにある空手道場にうかがいました(編注:『小説すばる』2018年5月号、今野敏 作家生活40周年記念企画「矢野隆、空手道今野塾へ!」)。琉球空手を教える今野さんのもとに、私が一日入塾するという体験記で。私はかねてから古流の抜刀術の修練をはじめていたのですが、その日は本当に学ぶことばかりでした。
江口
今野さんは2005年の『義珍の拳』から琉球空手評伝シリーズを手がけておられて、2021年6月刊の『宗棍』で5作目となりました。今回はそうして交流をお持ちのおふたりの間で、矢野さんが初めて琉球というテーマを扱った『琉球建国記』について大いにお話しいただければと、対談をお願いした次第です。
プロフィール

今野敏(こんの・びん) 1955年北海道生まれ。78年、上智大学在学中に「怪物が街にやってくる」で第4回問題小説新人賞を受賞。レコード会社勤務を経て、執筆活動に専念。2006年『隠蔽捜査』で第27回吉川英治文学新人賞、08年『果断 隠蔽捜査2』で第21回山本周五郎賞、第61回日本推理作家協会賞を受賞。17年「隠蔽捜査」シリーズで第2回吉川英治文庫賞を受賞。空手有段者で、道場「少林流空手今野塾」主宰

矢野隆(やの・たかし) 1976年福岡県生まれ。2008年「蛇衆綺談」で第21回小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。09年、同作を『蛇衆』と改題して刊行。21年『戦百景 長篠の戦い』で第4回細谷正充賞を受賞。時代・歴史小説を中心に執筆し、人気ゲームやマンガのノベライズも手がける。著書に『慶長風雲録』『斗棋』『山よ奔れ』『至誠の残滓』『源匣記 獲生伝』『とんちき 耕書堂青春譜』『さみだれ』「戦百景シリーズ」など。

江口洋(えぐち・ひろし) 集英社文庫編集部・部次長