よみもの・連載

『琉球建国記』刊行記念 特別対談 今野敏 × 矢野隆
―「琉球」を書く―

 
構成/宮田文久 撮影/織田桂子

今野
『琉球建国記』、ものすごく面白かったです。さすが書き慣れているといいますか、矢野さんはこれまでも戦(いくさ)ものの時代小説をたくさん書いてきて、手慣れていらっしゃる。安心して読むことができました。
矢野
ありがとうございます!
江口
15世紀、黎明期の琉球王国を舞台にした歴史長編です。三山分立(さんざんぶんりつ)といわれた時代を経て、尚巴志(しょうはし)による統一で琉球王国は成立したのですけれども、地方の有力者たちの存在がまだ大きかったころですね。物語の中心人物のひとりは、半ば独立国として扱われている勝連(かつれん)半島で役人をしている加那(かな)。のちに新たな勝連城主となり、“天より降って来た英雄”という意味の阿麻和利(あまわり)と呼ばれ、名を馳(は)せていきます。
今野
三山分立がようやく収まって、そこから第二尚氏という、明治の世まで続いていく家柄が生まれる瞬間を描いています。第一尚氏である尚泰久(たいきゅう)の側近でありながら、やがてそれを滅ぼし自らの王統を築いていくのが、本書の対抗的な人物である金丸(かなまる)――のちの尚円王(えんおう)です。そうした時代を描く『琉球建国記』は、戦の物語、いわば国盗り物語として非常に面白い。さらに、矢野さんが選んだ中心人物が加那のほうであるということもまた、興味深いわけです。これは琉球版の『水滸伝』であり、加那の一派は、いわば梁山泊ですよ。
矢野
梁山泊ですか。たしかに、加那は反逆者ですね。
今野
そう、反逆者ですからね。そして、反逆者を主人公にする物語は、非常に面白い。勝連で、加那を慕う荒くれ者の仲間たちがいるでしょう。彼らの空気感も、まるで梁山泊の人々のことを読んでいるような開放感がありますよね。首里城に集う金丸たちの空気感とは、対照的なところがある。
矢野
秩序に対するカオスといいますか。コントロールが効いた秩序の世界に対して、勝連は自由へと向かうというのがいいんじゃないか、とは思っていました。ああやって仲間が楽しくやっているような雰囲気が出ればいいな、と。
プロフィール

今野敏(こんの・びん) 1955年北海道生まれ。78年、上智大学在学中に「怪物が街にやってくる」で第4回問題小説新人賞を受賞。レコード会社勤務を経て、執筆活動に専念。2006年『隠蔽捜査』で第27回吉川英治文学新人賞、08年『果断 隠蔽捜査2』で第21回山本周五郎賞、第61回日本推理作家協会賞を受賞。17年「隠蔽捜査」シリーズで第2回吉川英治文庫賞を受賞。空手有段者で、道場「少林流空手今野塾」主宰

矢野隆(やの・たかし) 1976年福岡県生まれ。2008年「蛇衆綺談」で第21回小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。09年、同作を『蛇衆』と改題して刊行。21年『戦百景 長篠の戦い』で第4回細谷正充賞を受賞。時代・歴史小説を中心に執筆し、人気ゲームやマンガのノベライズも手がける。著書に『慶長風雲録』『斗棋』『山よ奔れ』『至誠の残滓』『源匣記 獲生伝』『とんちき 耕書堂青春譜』『さみだれ』「戦百景シリーズ」など。

江口洋(えぐち・ひろし) 集英社文庫編集部・部次長