よみもの・連載

『琉球建国記』刊行記念 特別対談 今野敏 × 矢野隆
―「琉球」を書く―

 
構成/宮田文久 撮影/織田桂子

今野
こんなことばかり喋(しゃべ)っていていいんだろうか(笑)。いや、ここまでいろいろと話してしまいましたが、矢野さんの『琉球建国記』を、ぜひ多くの読者の方に味わってみていただきたいんです。いま話したような戦いの面白さもありますし、やはり、この時代をちゃんと書いてくれた作家というのは、日本で初めてだと思うんですね。楽しんで読んでいるうちに、沖縄の歴史の勉強にもなると思います。そして加那、阿麻和利のキャラクター。先ほど開放感があるという話もありましたが、非常に魅力的な男として描かれている。ぜひ手にとってみていただきたいですね。
矢野
嬉(うれ)しいです、ありがとうございます。
今野
今回は加那の立場で書いたけれど、次があるとすれば、二作目は金丸の立場から書いてもいいかもしれないですね。『琉球建国記』の後の歴史を考えると、出世していった金丸も、第一尚氏の終わりごろに「俺はもういい」と言って一度は身を引く。しかし重臣たちが金丸しかいない、王になってくれと呼びたてたことで、彼は尚円王になり、第二尚氏王統がはじまっていくわけですよ。いいシーンじゃないですか、そのときの金丸の気持ちってどうなんだろうと思いますよね。読みたいな、それ……なんて、プレッシャーをかけてしまいますが(笑)。
矢野
励みにします、頑張ります。
江口
おふたりそれぞれ、新刊・近刊のスケジュールはどうなっていらっしゃいますか。
今野
三月に『無明 警視庁強行犯係・樋口顕』(幻冬舎)が出て、五月に『石礫 機捜235』(光文社)が、六月に『任俠楽団』(中央公論新社)が出ます。すべて単行本です。文庫ですと、三月に『呪護』が角川文庫、四月に『神南署安積班』新装版がハルキ文庫、『機捜235』が光文社文庫から出ます。
江口
矢野さんは、何よりまずこの『琉球建国記』が四月に出るわけですが、その後はいかがですか。
矢野
講談社文庫さんで書いている「戦百景」シリーズで、次の作品が予定されています。
今野
それはどのようなシリーズなんですか。
矢野
2021年6月に『戦百景 長篠の戦い』という作品を出しまして、11月に『戦百景 桶狭間の戦い』を、今年に入ってこの2月に『戦百景 関ヶ原の戦い』を出しました。次は、武田信玄と上杉謙信が相対した、川中島の戦いをテーマにする予定です。おそらく数カ月のうちには出るんじゃないでしょうか。
今野
緒戦は、武田軍の被害が非常に大きかったことで有名な戦いですよね。立ち込めていた霧が晴れた瞬間、武田軍の目の前に上杉軍がいたという。ばったり会ってしまったので、大変な被害になってしまったという。いわば事故ですよね、あの戦いは。
矢野
おっしゃる通り、事故ですね。なかなか本当のところはわからないというのもまた面白くて、いま書いている最中です。
今野
それは楽しみです。
江口
対談も終わりになりますが、せっかくの機会ですし、矢野さんから今野さんにうかがっておきたいことはありますか。
矢野
実はこの対談の後に、すこしお時間をいただいて、ご指導いただこうと思っていたんです。琉球空手の「外受け」というのは、いったいどうすればいいんでしょうか。そういった、最近よくわからなくなっている疑問をたくさん持ってきておりまして。そのうちいくつかだけでも教えていただければと……。
今野
ハハハ、たしかにそれは対談で話す内容ではないですね。どれ、この場でちょっとやってみましょうか……(と、ふたりでソファーを片づけていく)。
プロフィール

今野敏(こんの・びん) 1955年北海道生まれ。78年、上智大学在学中に「怪物が街にやってくる」で第4回問題小説新人賞を受賞。レコード会社勤務を経て、執筆活動に専念。2006年『隠蔽捜査』で第27回吉川英治文学新人賞、08年『果断 隠蔽捜査2』で第21回山本周五郎賞、第61回日本推理作家協会賞を受賞。17年「隠蔽捜査」シリーズで第2回吉川英治文庫賞を受賞。空手有段者で、道場「少林流空手今野塾」主宰

矢野隆(やの・たかし) 1976年福岡県生まれ。2008年「蛇衆綺談」で第21回小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。09年、同作を『蛇衆』と改題して刊行。21年『戦百景 長篠の戦い』で第4回細谷正充賞を受賞。時代・歴史小説を中心に執筆し、人気ゲームやマンガのノベライズも手がける。著書に『慶長風雲録』『斗棋』『山よ奔れ』『至誠の残滓』『源匣記 獲生伝』『とんちき 耕書堂青春譜』『さみだれ』「戦百景シリーズ」など。

江口洋(えぐち・ひろし) 集英社文庫編集部・部次長