アラーキーオススメの本
『ひとよ』 長尾徳子 著 / 原作・桑原裕子
作品制作・写真/金沢和寛
プロローグから一気に惹きこまれる。
大どんでん返しなんてものではない。
いきなり世界がひっくり返るのだ。
ある夜、晩ご飯を食べていた三兄妹に、タクシー運転手の母が告げる。「母ちゃんさ、母ちゃん今日、父ちゃん殺したよ」と。家族に暴力を振るう父を、自宅兼会社のガレージで、車で轢き殺したと言うのだ。あまりのことに微動だにすることができない子どもたちに、「大嫌いだった父ちゃんだから。母ちゃん、今、誇らしいんだよ」と言い、自ら警察に出頭していく――。
そして刑期を終え、さらに時を経た15年後、母は突然帰ってきた。父の暴力から子どもたちを守った、自分は絶対に正しいことをしたのだ、という誇りを抱えて。
だがその15年の間、子どもたちが置かれていた環境は決して、良いと言えるものではなかった。「殺人者の子ども」と周囲から白い目で見られたり、嫌がらせを受けたり、夢をあきらめなければならなくなったり。
殺人を犯してまで、父親の暴力から自分たちを助けてくれたという想いと、親が殺人者になることで被った様々な出来事との狭間で思い悩む子どもたち。一度崩壊した家族の絆は取り戻せるのか――。
重たいテーマでありながら、登場人物一人ひとりの置かれた環境が丹念に、でもテンポよく描かれていて、一切退屈することがない。誰か一人には必ず共感できるはず。一家が三兄妹というのも、母への対応の仕方や抱く想い、自分が現在置かれている環境がそれぞれ異なって個性がはっきりと表れ、感情移入することが大いにできる。
読書の醍醐味すべてが詰まった一冊。
とてもオススメです。
プロフィール
- アラーキー
- 常に何か食べてる宣伝担当
- 大学で専攻していたのが「ラオス語」というだけで珍しがられ、就職戦線を乗り切った30代。食べ物も本も好き嫌いはなくて何でも好き。見たことのない食べ物があればとりあえず食べ、タイトルやカバーが良いと思った本はとりあえず買う。趣味は秘境駅巡りと野球観戦(カープファン)とバドミントン。
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2021.7.15 ナツイチ2021
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2021.3.19 辺境の怪書、歴史の驚書、ハードボイルド読書合戦 高野秀行/清水克行 著
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2020.11.20 名も無き世界のエンドロール 行成 薫 著
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2020.6.19 ナツイチ2020
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2020.3.19 あのこは貴族 山内マリコ 著
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2019.11.20 ひとよ 長尾徳子 著/原作・桑原裕子
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2019.7.19 慈雨 柚月裕子 著
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2019.2.20 みかづき 森 絵都 著
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2019.2.1 我が家のヒミツ 奥田英朗 著
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2018.12.7 根本陸夫伝 プロ野球のすべてを知っていた男 髙橋安幸 著
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2018.07.20 恋するソマリア 高野秀行 著
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2018.01.19 オトコの一理 堂場瞬一 著
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2017.03.17 桜のような僕の恋人 宇山佳佑 著
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2016.11.18 全一冊 小説 上杉鷹山 童門冬二 著
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2016.06.23 チア男子!! 朝井リョウ 著
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2016.02.19 無伴奏 小池真理子 著
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2015.11.20 狭小邸宅 新庄 耕 著