白虎隊に一人、生き残りの隊士がいたことをご存じですか。
その者の名は飯沼貞吉。仲間と自刃しましたが、ただひとり蘇生し、会津藩の同胞から生き残りの謗りをうけ生きていく過酷な運命を背負っています。
自暴自棄の貞吉に一人の侍が手をさしのべます。長州藩・楢崎頼三です。長州藩は会津藩に朝敵の汚名を着せ、恭順を受け入れず、戦争に持ち込んだ憎むべき相手です。
頼三は「敵の情けは受けない」と拒絶する貞吉を、会津人ではなく日本人の飯沼貞吉として生きていくようにさとし、長州に来るように誘います。悩んだ貞吉ですが、両親からの説得もあり、長州にわたり、頼三とその両親・豊資とトミと一緒に暮らし始めます。
3人との共同生活で少しずつ胸襟を開いていく貞吉。しかし、地元の人々に「会津出身」であることがばれてしまい、傷ついた貞吉は自殺未遂をおこします。貞吉の心の傷が癒えることはありません。
貞吉が日本を支える人材になることを期待している頼三は学問所入学を斡旋し、長州から静岡へ向かいます。貞吉、17歳の門出です。
無事入学しましたが、会津藩出身・白虎隊の生き残りであることを知られると、人と関わることが出来ません。腹痛を理由に授業をさぼります。貞吉のそんな姿に頼三は怒りを覚え、うちひしがれます。自分が貞吉を甘やかしたのだと。学校を退学させられた貞吉は食い扶持を稼ぐために荷運びの仕事へ、頼三はかねてよりの夢であったパリへと留学に向かいます。
その後、貞吉は藤沢次謙という師に出会います。藤沢はこういいます。「違うのは、努力するやつと、しないやつということだけだ」「おまえは努力する方になれ」と。
この出会いにより次第に貞吉の心は解きほぐされていきます。そんなとき初めてこう思いました。「なぜ頼三に礼のひとつもいえなかったのか」と。貞吉は少しずつ成長していくのです。
元来、出来のよかった貞吉は電信の分野に興味をもち、東京にできる電信修技場に入学します。そして抜群の成績で修業をおえ、通信士見習いとして工部省電信寮へ就職し、自分の道を歩みはじめるのです。
仕事を懸命にとりくみ関門海峡に海底ケーブルを敷設し、東京、長崎間を電信でつなげる事業にも参加。まもなく貞吉は21歳を迎えます。充実した生活を送る貞吉はある日、パリの日本公使館からの国際通信を目にします。
「サル二カツ十七ニチ ヤマクチケンシユツシン ナラサキライソウ カネテヨリノヒヤウキニテシス タウチニテマイサウス」
何度もこの電文を読み返します。貞吉は頼三と喧嘩別れしたまま、永遠の別れを迎えてしまったのです。生涯とりかえしのつかない後悔の念を抱き、貞吉の目に涙があふれます。頼三も同様に後悔の念を抱いていました。パリに留学し、孤独の意味を知り、会津から長州にきた貞吉のことをずっと思っていたのです。敵同士の藩出身者が明治という新しい時代を築いていくためにぶつかる熱い信念と魂。後悔の念があるからこそ人は成長できる、そう思える作品です。明治維新150周年の今年、読んでいただきたい1冊です。
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