よみもの・連載

あなたの隣にある沖縄

1. ウルトラマンは沖縄からやってきた

澤宮 優Yu Sawamiya

 昭和41年の7月から10か月にわたり放送された「ウルトラマン」は、私が幼稚園児だった昭和四十五年頃に再放送され、ブームが長く続いていた。
 銀河系のM78星雲の「光の国」からやって来た平和の使徒ウルトラマンが、人間の身勝手な宇宙開発や都市工事により出現した怪獣たちをやっつけるというストーリーである。しかし後年「怪獣ブーム」と呼ばれたように、敵役であるはずの怪獣たちが多彩で魅力があり、むしろ人気だったのだ。デパートのおもちゃ売り場にあるソフトビニール人形は大人気だった。
 当時の私も気持ち的には怪獣に肩入れすることが多かった。その筆頭が「まぼろしの雪山」(第30話)に登場するウーである。
 舞台はある雪山のスキー場。そこには「雪ん子」と呼ばれる孤独な少女が住んでいる。優しい性格の彼女は猟師たちが熊を狩るのをやめさせようとするが、そのためよく村人から虐(いじ)められていた。そんなとき彼女を助けようとやってくるのが、雪山に棲(す)む怪獣、ウーである。雪ん子を慕うウーは、彼女から「人間に乱暴するな」と叱られれば、聞き分けよく黙って雪山に戻る。
 あるとき野山で老人の死体が見つかり、雪ん子は村人に犯人扱いされてしまう。彼女に鉄砲が向けられたとき、ウーが助けに現れる。科学特捜隊はウーを攻撃し、ウーは興奮してスキー場や山小屋も破壊してしまったので、ついにウルトラマンが登場する。
 ウルトラマンはウーと戦うが、そのとき雪ん子の「ウーよ」と哀(かな)しい叫び声がこだまする。彼女の思いにウルトラマンは攻撃をやめて、空に飛び立ち、ウーも雪山に消えた。しかし、雪ん子は村人に殺されていた――というなんとも切ない話である。
 放送されたのは高度経済成長の最中、私たちの暮らしが右肩上がりで豊かになった時期だ。カラーテレビや冷蔵庫、車などが普及しはじめ、多くの人々が豊かになる中で、貧しい人たちは異端視される時代になっていた。
 この頃私の故郷の河原には、バラック小屋を建てて住む人たちがいて、彼らは熊本弁で「カンジン」(乞食の意味)と蔑まれていたが、その光景が雪ん子とウーの姿に重なる。
 このように、世相を反映したストーリーの中で、象徴的な存在だった怪獣たち。彼を生みだしたのは、沖縄出身の金城哲夫である。
 私は30代の半ばに彼の伝記『ウルトラマンを創った男』(朝日文庫)を読み、金城が沖縄出身で、失意の日々の中、37歳という若さで事故死したことを知った。そして彼が学んだという玉川学園は、当時私の子供たちが通っていたこともあり、奇妙な縁を感じた。
 金城哲夫は自由主義教育を標榜(ひょうぼう)する玉川学園でどんな学園生活を送っていたのか。彼のルーツである沖縄は、ウルトラマンにどんな形で投影されていたのかを探ってみようと思った。

プロフィール

澤宮 優(さわみや・ゆう) 1964年熊本県生まれ。ノンフィクションライター。
青山学院大学文学部卒業後、早稲田大学第二文学部卒業。2003年に刊行された『巨人軍最強の捕手』で戦前の巨人軍の名捕手、吉原正喜の生涯を描き、第14回ミスノスポーツライター賞優秀賞を受賞。著書に『集団就職』『イップス』『炭鉱町に咲いた原貢野球 三池工業高校・甲子園優勝までの軌跡』『スッポンの河さん 伝説のスカウト河西俊雄』『バッティングピッチャー 背番号三桁のエースたち』『昭和十八年 幻の箱根駅伝 ゴールは靖国、そして戦地へ』『暴れ川と生きる』『二十四の瞳からのメッセージ』などがある。

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