よみもの・連載

あなたの隣にある沖縄

1. ウルトラマンは沖縄からやってきた

澤宮 優Yu Sawamiya

ウルトラ怪獣は沖縄を映す鏡なのか
 円谷(つぶらや)プロの企画文芸室長だった金城は、「ウルトラマン」とその前に放送された「ウルトラQ」の全作品に企画・原案などの形で携わっている。彼の描く怪獣たちは単に悪者ではなく、どこか愛嬌(あいきょう)があって可愛(かわい)らしい。カネゴン、ピグモンなどがとくにそうだ。一見するとより怪獣らしいレッドキングも、よく見ると教室に一人はいたガキ大将に見えてくる。
 同じ沖縄出身で「帰ってきたウルトラマン」でメインライターを務めた上原正三は、金城の怪獣に対する思いを語る。
「怪獣というより怪物と表現したほうがしっくりくるのもいます。『ウルトラQ』の『宇宙からの贈りもの』(第3話)のナメゴンや『五郎とゴロー』(第2話)に出てくる巨大な猿とかですね。怖くなく、むしろ楽しいと子供たちに思わせる存在です」
 ナメゴンは巨大なナメクジで、ほのぼのとした親しみやすさがあり、人間に対して悪さをする存在ではない。巨大猿ゴローは、障害のある孤独な青年五郎と心の交流をもつ。総じて感じるのは親しみである。
 金城は昭和13年に沖縄本島南部にある南風原(はえばる)村(現南風原町)で生まれている。6歳で沖縄大空襲を、7歳で米軍上陸後の過酷な戦場体験をしているが、沖縄の話は殆(ほとん)どしなかったという。一緒に仕事をした上原は証言している。
「金城と3、4年一緒に円谷プロにいましたが、沖縄戦の話をしたことは殆どありません。彼は沖縄の重荷から離れようとしていました。ただ、おふくろさんの話は聞いたことがあります。米軍の戦闘機の機銃掃射で撃たれて足を奪われたんです。その瞬間を防空壕で7歳くらいだった彼が見ていたそうです」
 昭和20年4月1日、米軍が沖縄本島に上陸し本格的な地上戦が始まったとき、金城たちは南風原村の津嘉山(つかざん)にいた。米軍の凄(すさ)まじい空襲で逃げ遅れた母親のつる子は、低空飛行したグラマン戦闘機の機銃掃射を左足に受けて負傷、後に足を切断した。壕の中で金城は痛みに苦しむ母の姿を体をふるわせながら見ているしかなかった。
 父親はビルマ戦線にいたので、一家の柱は祖父である。祖父は金城家の血を残すため、女性たちを壕に残し、男たちは外を逃げ回るという二手に分かれて避難する方法を選ぶ。何かあっても、どちらかが生き残るためである。このとき幼い金城は母と別れたくないと泣いた。幸い家族全員、生き残ることができたが、母親はその後、義足をつけて生活しなければならなくなった。上原は言う。
「長男の彼は大好きだったお母さんが負傷したのを見捨てて逃げました。逃げたことへの負い目、そして命がけで逃げまどったトラウマは、彼を一生悩ませたと思うんです。だから彼は戦争の話をしなかったのだと思います」
 だとすれば、なかなか表面には沖縄の姿は見えてこないかもしれない。しかし作品の根の部分には、潜在意識によって描かれた沖縄が見え隠れしているのかもしれない。彼の少年期から、ウルトラマン以後までを追うことで、見えてくるものがあるのではないか、と考えた。彼と親しかったあるジャーナリストに、金城の素顔を取材した。

プロフィール

澤宮 優(さわみや・ゆう) 1964年熊本県生まれ。ノンフィクションライター。
青山学院大学文学部卒業後、早稲田大学第二文学部卒業。2003年に刊行された『巨人軍最強の捕手』で戦前の巨人軍の名捕手、吉原正喜の生涯を描き、第14回ミスノスポーツライター賞優秀賞を受賞。著書に『集団就職』『イップス』『炭鉱町に咲いた原貢野球 三池工業高校・甲子園優勝までの軌跡』『スッポンの河さん 伝説のスカウト河西俊雄』『バッティングピッチャー 背番号三桁のエースたち』『昭和十八年 幻の箱根駅伝 ゴールは靖国、そして戦地へ』『暴れ川と生きる』『二十四の瞳からのメッセージ』などがある。

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