よみもの・連載

『ナポレオン』全3巻完結記念 特別対談 佐藤賢一 × 矢野隆
―英雄を描くということ―

 
構成/宮田文久
撮影/織田桂子

佐藤賢一 × 矢野隆『ナポレオン 全3巻』完結記念特別対談 ―英雄を描くということ―

『ナポレオン』全3巻完結を記念して佐藤さんと対談するのは、
4月に『琉球建国記』を刊行した矢野隆さん。
来年デビュー30年を迎える佐藤さんと15年を迎える矢野さんは
おふたりとも、「小説すばる」新人賞のご出身です。
そんな先輩・後輩のおふたりに英雄論や創作論を語っていただきました。


江口
この2022年8月で、3カ月連続で刊行してきた佐藤賢一さんの『ナポレオン』全3巻文庫版が、完結することになりました。英雄として仰ぎ見るようなイメージを持たれがちなナポレオンですが、佐藤さんは内面まで迫ることで人間臭いナポレオンを描かれていて、とてもリアルで面白い。これでナポレオン像が一気に変わる、とさえ思える作品です。
一方でちょうど今年、「小説すばる」が創刊35周年を迎えました。そこでぜひ、第6回(1993年)の「小説すばる」新人賞を受賞してデビューした佐藤賢一さんと、第21回(2008年)の同賞からデビューし、この春に『琉球建国記』を上梓(じょうし)された矢野隆さん、ともに歴史小説の書き手であるおふたりに語りあっていただければと考えています。会うのはお久しぶりなんですよね?
佐藤
本当にお久しぶりですよね。
矢野
先ほどお話ししていたんですが、たぶん10年ぶりぐらいだと思います。
佐藤
前にお会いしたのは、下の世代の方の、「小説すばる」新人賞の授賞式ですよね。式が終わった後にお話しして。
矢野
とても優しく接してくださった記憶があります。佐藤さんは、今日も本当に、とても柔らかな物腰の先輩なんです。だからこそ――これは失礼にあたらないといいなと思うのですが――『ナポレオン』を拝読して、ナポレオンの激しているような衝動を、このように生き生きと書かれる方には見えないんです。改めて驚いています。
佐藤
そうなんですか?(笑)
プロフィール

佐藤賢一(さとう・けんいち) 1968年山形県生まれ。93年『ジャガーになった男』で第6回「小説すばる」新人賞を受賞し、デビュー。99年『王妃の離婚』で第121回直木賞、2014年『小説フランス革命』で第68回毎日出版文化賞特別賞、20年『ナポレオン』で第24回司馬遼太郎賞を受賞。

矢野隆(やの・たかし) 1976年福岡県生まれ。2008年「蛇衆綺談」で第21回「小説すばる」新人賞を受賞し、デビュー。09年、同作を『蛇衆』と改題して刊行。21年『戦百景 長篠の戦い』で第4回細谷正充賞を受賞。時代・歴史小説を中心に執筆し、人気ゲームやマンガのノベライズも手がける。

江口洋(えぐち・ひろし) 集英社文庫編集部・部次長