よみもの・連載

あなたの隣にある沖縄

3.集団就職とがじゅまるの会

澤宮 優Yu Sawamiya

〈この祭りは、差別に苦しんだある沖縄青年の無念の死を契機に、沖縄の誇りを取り戻し、自信を持とうという想いで始まり、今回の第43回エイサー祭りに至りました。(中略)……祭りの由来を知り、差別の歴史に想いを馳せ、その青年の供養も一緒にささげましょう〉
 Y君事件の悲劇を繰り返してはいけないという願いは、現在のエイサー祭りにも生き続ける。そして形は変わっても、沖縄から来た人々の問題は今も存在しているのだ。

 今、玉城は体調を崩し、故郷の浜比嘉島に戻っている。頭に白いものが交ざっているが、話の途中にときおり目が鋭く光る。何か一つのことを成し遂げた人の持つ独特のオーラを感じる。集団就職のときの思い出を彼は話してくれた。
「僕らより先に本土に集団就職で行って、ラーメンの屋台を引いている先輩がいました。一度だけ話したことがあります。周りの人間は、あんな遠い沖縄から来て、こういう仕事しかできない、可哀そうにと陰で言っていました。でも僕は、この人の作ったラーメンには本当に愛情があると思いました。その人の味を僕はもっと勉強しなければいけなかったと、後になって思いました」
 玉城の言う「その人の味をもっと勉強する」という言葉がいつまでも脳裏に残る。彼の実家の近くには、静かな青い海が広がっていた。
 コロナ禍の日々で、私たちは互いに助け合うことの重要性をあらためて教えられたと思う。まだ雇用不安、経済不況が続く。その中で令和3年12月には大阪市北区曽根崎新地の堂島北ビルで放火事件があり、クリニック内にいた27名の人の命が奪われた。なぜこのような痛ましい事件が起こるのだろうか。そのとき玉城の言葉を思い出した。
「人は誰しもその人なりの味を持っているように、代わりのきかない大事な命を持っている。それがわかる人間こそが、互いに尊重し助け合うことができるのだ」
 玉城が私に語った言葉には、そんな意味が込められていると考えている。

プロフィール

澤宮 優(さわみや・ゆう) 1964年熊本県生まれ。ノンフィクションライター。
青山学院大学文学部卒業後、早稲田大学第二文学部卒業。2003年に刊行された『巨人軍最強の捕手』で戦前の巨人軍の名捕手、吉原正喜の生涯を描き、第14回ミスノスポーツライター賞優秀賞を受賞。著書に『集団就職』『イップス』『炭鉱町に咲いた原貢野球 三池工業高校・甲子園優勝までの軌跡』『スッポンの河さん 伝説のスカウト河西俊雄』『バッティングピッチャー 背番号三桁のエースたち』『昭和十八年 幻の箱根駅伝 ゴールは靖国、そして戦地へ』『暴れ川と生きる』『二十四の瞳からのメッセージ』などがある。

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