よみもの・連載

あなたの隣にある沖縄

4.演劇「人類館事件」が訴えるもの

澤宮 優Yu Sawamiya

 令和3年度にNHKのBSプレミアムで日曜日の朝に、昭和53年に放送された大河ドラマ「黄金の日日」が再放送された。私が中学生のとき、初めて見た大河ドラマで教科書に載っていない歴史の生々しい人間模様や残虐な場面が描かれていて、自分を歴史への興味にいざなってくれた忘れがたいドラマである。人が晒(さら)される刑罰、というものを私が初めて見たのは、このドラマによってであった。「黄金の日日」は、安土桃山時代の自由都市大坂・堺を舞台に、豪商に奉公する納屋助左衛門(市川染五郎・現松本白鸚)、鉄砲の名手杉谷善住坊(川谷拓三)、天下の盗人石川五右衛門(根津甚八)たちの人間模様を描いた作品で、3人の主人公の人気が高く大変な話題になった。
 善住坊はある人物からの依頼で織田信長の暗殺を試みるが、失敗してしまう。方々を逃げ回ったが、最後は捕らえられ、鋸引(のこび)きの刑に処される。橋の袂(たもと)に首まで埋められ、通行人に晒されるのだ。橋を通る者は役人に命じられ、善住坊の首を鋸で引かされる。そのたびに痛みでうめき声を上げる善住坊。簡単に殺さないで、徹底的に苦しみ抜かせて殺すという刑罰だ。助左衛門も親友の首を鋸で引くことになり、そこでようやく息が絶える、という残酷な顚末(てんまつ)は、当時も衝撃的だったが、今回も私は見ておられず目を背けた。人が権力を持つと、弱い者に対してこうまで残虐な仕打ちができるものか、と改めて思った。ちょうどこの頃、明治時代にあった「人類館事件」という人間を博覧会で展示するという出来事を調べていた。そのせいか、余計に「黄金の日日」の鋸引きの刑がショッキングだったのだ。
「人を晒す」残酷な刑罰は、戦国時代に限った話ではない。この「人類館事件」は近代に学術研究者たちが犯した事件である。
 明治36年に大阪市天王寺で開催された第5回内国勧業博覧会(3月1日〜7月31日)のときであった。
 博覧会会場の近くに余興施設として作られた「人類館」で、沖縄、アイヌ、朝鮮、台湾、中国、インド、バルガリー(現インド西ベンガル州・バングラデシュなど)、トルコ、アフリカなどの人々が民族衣装を着せられ、陳列された。博覧会で人間を展示するのは、この14年前のパリ万国博覧会でも行われ、フランス植民地下のアジア、アフリカの人々が陳列されている。これを現地で見た人類学者の坪井正五郎が、大阪でも人類学の研究のため、という名目で同じ行為に及んだのだった。これを「人類館事件」と呼ぶ。

「人類館事件」とは
 大阪市大正区は、大正時代から沖縄の人々が出稼ぎのために多く移住した町である。現在も住民の約2割が沖縄出身者で占められ、路地を歩けば魔除けの「石敢當(いしがんとう)」の石碑や、沖縄料理店に行き当たる。

プロフィール

澤宮 優(さわみや・ゆう) 1964年熊本県生まれ。ノンフィクションライター。
青山学院大学文学部卒業後、早稲田大学第二文学部卒業。2003年に刊行された『巨人軍最強の捕手』で戦前の巨人軍の名捕手、吉原正喜の生涯を描き、第14回ミスノスポーツライター賞優秀賞を受賞。著書に『集団就職』『イップス』『炭鉱町に咲いた原貢野球 三池工業高校・甲子園優勝までの軌跡』『スッポンの河さん 伝説のスカウト河西俊雄』『バッティングピッチャー 背番号三桁のエースたち』『昭和十八年 幻の箱根駅伝 ゴールは靖国、そして戦地へ』『暴れ川と生きる』『二十四の瞳からのメッセージ』などがある。

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