よみもの・連載

あなたの隣にある沖縄

6.普天間飛行場は戻ってくるのだろうか?

澤宮 優Yu Sawamiya

今も基地は苦しめる
 字宜野湾の人々は、普天間飛行場が返還されて故郷に戻ることを望んでいるが、「辺野古に基地を作るとか、たらい回しはやめてほしい。危険性はどこも一緒ですから」と述べる。
 もう一つは今も苦しめる飛行場の騒音である。現在の米軍と沖縄県との取り決めでは、22時以降航空機は飛ばないことになっている。しかし地上での機体の整備で23時過ぎまでエンジンを動かすことはよくある。郷友会会長の松本は憤る。
「昨日も眠れなかったですよ。米軍は22時の5分前でも恐ろしい音を出します。夜も飛行機が基地に降りた後も、地上でエンジンモーターを回し続けます。凄(すさ)まじくうるさいですよ」
 この音は戦争を体験した人たちにとって、艦砲射撃や爆撃の破裂音を思い出させてしまう。トラウマになって不安を煽(あお)り、夜に目を覚ましてしまうのである。そして思うのは、何で沖縄県民が、こういう危険な目に長く晒(さら)されなければならないのかという不条理である。
 そのような中、内地でも普天間飛行場の辺野古への移設をめぐり、沖縄の米軍基地を本土で引き取ろうという活動が各地で起こっている。
 平成27年3月に「沖縄差別を解消するために沖縄の米軍基地を大阪に引き取る行動」が結成され、9月には福岡、同28年5月には新潟、さらに長崎、首都圏へ「引き取る行動」の活動は広がる。大阪で会を結成した金城馨(関西沖縄文庫主宰)は語る。
「大阪で基地を引き取ることに、反戦・平和運動をする人はとんでもない≠ニ言いました。そこに問題の本質があります。重要なのは沖縄に基地を押し付け、自分たちは安全な場所にいることを自覚せずに基地撤去運動をしても、本質から外れているということです」
 このような問題は、いざ難題が自分たちに降りかかれば、反対するという人間の利己心を露わにする。それが沖縄の声に寄り添っていないことをわかっていながらでもだ。
 戦後すぐに連合国軍最高司令官のマッカーサーは沖縄を日本から分離させるとき、「沖縄人は日本人でなく、本土において日本人と同化したことはなかった」と述べた。
 その後米国軍政府は沖縄民政府を設立し、支配下に置く。沖縄の人々の鬱積した不満に対して米国軍政府はこう答えた。
「米国軍政府はネコで沖縄はネズミである。ネコの許す範囲でしかネズミは遊べない」
 米国の屈辱的な言葉を本土の人間はどう感じるか、そこが問題なのだ。その中で私たちがまずすべきことは、沖縄に寄り添うことの意味を現実に即して考えることである。

プロフィール

澤宮 優(さわみや・ゆう) 1964年熊本県生まれ。ノンフィクションライター。
青山学院大学文学部卒業後、早稲田大学第二文学部卒業。2003年に刊行された『巨人軍最強の捕手』で戦前の巨人軍の名捕手、吉原正喜の生涯を描き、第14回ミスノスポーツライター賞優秀賞を受賞。著書に『集団就職』『イップス』『炭鉱町に咲いた原貢野球 三池工業高校・甲子園優勝までの軌跡』『スッポンの河さん 伝説のスカウト河西俊雄』『バッティングピッチャー 背番号三桁のエースたち』『昭和十八年 幻の箱根駅伝 ゴールは靖国、そして戦地へ』『暴れ川と生きる』『二十四の瞳からのメッセージ』などがある。

Back number