よみもの・連載

2023年新春鼎談 天野純希×澤田瞳子×矢野隆

 
構成/宮田文久 撮影/織田桂子

天野
そうですね。今年は多くの作品が、本の形になっていくといいなと思います。
江口
実り多き年でありますよう、願っています。澤田さんはいかがですか。
澤田
すこしどっしりと、落ち着いて仕事がしたいなと感じています。というのもここのところ、ひたすら走ってきた気がするもので……。2010年デビューの私は、昨年作家生活12周年を迎えてちょうど一巡りした感じなんです。落ち着きは取り戻しつつ、かといってあまり守りに入らずに、いろいろと新しいことに挑戦していきたいと思います。
江口
昨年12周年だったのですね。2007年に第20回小説すばる新人賞受賞でデビューされた天野さんは……?
天野
私は昨年デビュー15周年で、今年16年目に入りました。
江口
となると、翌年の小説すばる新人賞でデビューされた矢野さんは、今年デビュー15周年を迎えることになるわけですね。
矢野
そうですね。ずっとこの仕事をさせてもらえているということは、本当にありがたいことだなと実感しています。何かに固執するということではなくいろんな仕事をしてきたので、澤田さんのお話に重なるかもしれませんが、私もまた新しいことに挑んでいきたいですね。去年から仕込んでいるものが今年から徐々に形になっていくかと思われるのですが、それはいままで私が積み重ねてきたことを踏まえての、かなりのチャレンジになりそうです。真剣に、一生懸命取り組んでいきたいですね。
江口
私たち集英社文庫も45周年をこえて、次の50周年に向けて、さらには千年文庫へ歩みながら、挑戦と実りの多い年にしたいなと思っています。そのためにも、いまエンタメ小説がどのような変化を遂げてきているのか、考えてみたいのです。お三方には、「2023年、おすすめの歴史時代小説」というテーマで、推薦書をご準備いただきました。まず、澤田さんからうかがえますか。
澤田
私は、永井紗耶子さんの直木賞候補作『女人入眼』(中央公論新社、2022年4月)と、梶よう子さんの『広重ぶるう』(新潮社、2022年6月)を挙げたいと思います。歴史時代小説の世界でもこの数年、「女性を描く」ことのあり方が、ずいぶん変わってきたなと感じています。たとえば以前ですと戦乱の世の脇役のみとされていた女性たちが、自らの手で人生を開く主人公として生きていく物語というかたちで描き直される例が増えました。永井さんの御作はまさに、いままでは不遇な脇役として描かれてきた鎌倉時代の女性たち――特に源頼朝・北条政子の子である大姫をきちんと人間として描く、というところが面白い。いまの日本だからこそ読まれるべき作品です。
プロフィール

天野純希(あまの・すみき) 1979年愛知県生まれ。愛知大学文学部史学科卒業。2007年『桃山ビート・トライブ』で第20回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。13年『破天の剣』で第19回中山義秀文学賞、19年『雑賀のいくさ娘』で第8回日本歴史時代作家協会賞作品賞を受賞。作品に『青嵐の譜』『南海の翼 長宗我部元親正伝』『信長 暁の魔王』『剣風の結衣』『もののふの国』『信長、天が誅する』『紅蓮浄土 石山合戦記』『乱都』『もろびとの空 三木城合戦記』ほか。

澤田瞳子(さわだ・とうこ) 1977年京都府生まれ。同志社大学大学院博士課程前期修了。専門は奈良仏教史。2011年デビュー作『孤鷹の天』で第17回中山義秀文学賞を受賞。『満つる月の如し 仏師・定朝』で12年に第2回本屋が選ぶ時代小説大賞、13年に同作で第32回新田次郎文学賞を受賞。16年『若冲』で第9回親鸞賞、21年『星落ちて、なお』で第165回直木賞を受賞。作品に『腐れ梅』『火定』『恋ふらむ鳥は』『泣くな道真 大宰府の詩』『吼えろ道真 大宰府の詩』ほか。

矢野隆(やの・たかし) 1976年福岡県生まれ。2008年「蛇衆綺談」で第21回小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。09年、同作を『蛇衆』と改題して刊行。21年『戦百景 長篠の戦い』で第4回細谷正充賞、22年『琉球建国記』でオリジナル文庫では初めてとなる第11回日本歴史時代作家協会賞作品賞を受賞。作品に『慶長風雲録』『斗棋』『至誠の残滓』「戦百景」シリーズほか。

江口 洋(えぐち・ひろし) 集英社文庫編集部・部次長